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 ピエロの手からたくさんの風船が空に放たれた。こどもたちの歓声が追いかけてゆく。
 今朝もパーシャル大市は大盛況だった。野外市場であるテルシャ広場は大勢の商人と客でごった返し、色とりどりの活気にあふれている。
 リフカの貴金属、サーナの香辛料。ドルア地方の毛織物に、ウルキアの両替商。さらには大道芸人や吟遊詩人などもつどい、祭りのようなにぎわいをみせていた。

 

「まずはラグロアの絹織物をチェックしなくちゃ。サムアの紅茶もストックがなくなってきてるし、リフカ産のルビーも欲しいわ。ああガルアおじさん、今回もお店を出してくれてるかしら」

 

 リリーはリッドの腕につかまりながらキョロキョロする。すごい人混みで、お目当てを探すのにひと苦労だ。

 

「こうも出店が多いと、見取り図を見ながら回らなきゃどうにもならないな」

 

「それならパパが持ってると思うけど……。どこにいるのかしら。ギルドの方かな」

 

 リリーの父は両替商ギルドの代表をしている。大市の2週間以上前から準備に大忙しだった。

 

「ならとりあえずギルドに行くか。広場をつっきるから、はぐれるなよ」

 

「うん。――あっ待ってリッド。大道芸が始まるみたい」

 

 リリーは目を輝かせた。広場の一角で、2人の楽師が客寄せの音楽を奏でている。ポツポツと人が集まり始めていた。

 

「今なら最前列で見られるわ!」

 

「仕方ねェな」

 

 リッドは苦笑する。予定を変更して、リリーたちは一番前で芸を見ることにした。ある程度人が集まったところで、テントから四十がらみの男が出てきた。快活な表情で一礼する。

 

「やあやあみなさま! よくぞお集まりいただきました。我らカルピオ一座は西へ東へ世界各地を飛び回る、陽気な芸人どもでございます。私、当一座の座長をつとめております、ウリセス・カルピオと申します」

 

 拍手をしながら、リリーは「初めて見る一座ね」とささやいた。

 

「当一座にはジャグラーにピエロ、軽業師に手品師、占い師までございます。皆さまにはぜひ、楽しい夢のひとときをお過ごしください!」

 

 朗々としたあいさつが終わると、音楽が陽気なものに変わった。
 テントから、化粧をほどこしたピエロが躍り出て、おどけたパントマイムを始める。ピエロがドジをして転んだりするたび、観客から笑いが起こった。 バルーンで作った犬や猫をこどもたちにプレゼントしたあと、大げさに両手を振りながらテントの中に引っこんでいく。

 

 次に出てきたのはジャグラーだ。ハッとするほどのの二枚目で、女性客から歓声があがる。
 複数の小さなボールとクラブを宙に放り投げ、器用に体の周りをクルクル回している。さらにそのまま大きなボールに飛び乗って、クラブたちを自由自在に操った。観客から大きな拍手が起こる。

 

 リリーも感嘆の溜息をもらして、

 

「すごいわ。常連のアンジー一座より上手ね。あっ、次は一輪車に乗ったわ。すごい。わたしも習ってみようかしら」

 

「オレはあえて、反対の意を唱えておくぞ」

 

「失礼ね、わたしには無理ってこと? こう見えても、ダンスはそこそこできるのよ」

 

「それは知ってるけど、リリーがジャグリングできるとは到底思えねぇんだよな」

 

「――リリー、リッド」

 

 聞き慣れた声に呼ばれた。ルビーだ。男なのに、相変わらず綺麗なたたずまいをしている。

 

 

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