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 ちなみに、リリーたちの背後にはぶ厚い人垣があった。それでもルビーが涼しい顔でリリーの背後に辿りつけたのには理由がある。
 彼は若くして教会の聖術師になった人物なので、人々が敬意を表して、自然に道をあけてくれるのだ。

 

「本当にすごいね。なんていう一座だい?」

 

「えっと、サルマタ一座だったかしら」

 

「カルピオ一座だろ」

 

「そう、カルピオ一座。ルビーも一緒に見ていかない?」

 

「――カルピオ?」

 

 ルビーが眉をひそめた。

 

「ルビー知ってるの?」
「……いや。初めて見る一座だよ」

 

 ルビーはいつもの穏やかな雰囲気にもどった。

 

「それよりもリリー。ギリスさんの手が空いて、いま教会にいるんだ。この一座は明日もやるだろうし、今から一緒に教会へ行かないか?」

 

「ちょうどパパに会いに行こうと思ってたの! 司祭様にごあいさつもしたいし。ね、リッド」

 

 リッドは肩をすくめた。
 教会が管理している孤児院で、リッドとルビーは育っている。だからアンナル司祭には幼少の頃からお世話になっているはずだ。なのにリッドはいつもこんな態度である。

 

「ルビーは偉いよな。やっと孤児院を出られる歳になったっていうのに、まだ教会にいつづけてんだから。あれから何年だ?」

 

「僕は今年二十歳だから、教会に入って7年かな。たまたま聖術が使えたから、それを仕事にしただけだよ。リッドも自分の『力』を生かして仕事に就いてるんだから一緒だろう」

 

「まあ、めったなことでは使えねェけどな。外聞悪いし」

 

 リリーは2人がこういう会話を始めると、入っていけない。
 リッドもルビーも、13歳で孤児院を出てすぐに働いている。リッドは今年17歳で、リリーより2つ年上だが、2人の会話には大人の雰囲気があった。

 

 自立しているのだ。いつまでも父親の庇護のもとで暮らしているリリーとはちがう。

 

「リッドはそうだろうね。でもギリスさんに雇われて良かったじゃないか。金融界の風雲児とはあの人のことだろう。四角四面の主よりやりやすいんじゃないか?」

 

「ああおかげさまでのびのびと仕事させてもらってるぜ。なぁ?」

 

 リッドのてのひらがポンと頭に乗った。リリーはほっとする。置いてけぼりのリリーを、リッドはこうして引きもどしてくれる。

 

「パパも、リッドのこといつも褒めてるのよ。わたしのことは、リッドに任せておけば安心だって言ってるの」

 

「あたりまえだろ。この街にオレより腕の立つ奴なんていないんだから」

 

「ギリスさんはそれだけを見て言ってるわけじゃないと思うけどね」

 

 ルビーは微笑んだ。

 

 目の前の集金箱にお札を3枚入れて、リリーたちは客の輪を出る。
 最後に振りかえった時、なぜかジャグラーの青年がリリーを見ていた。青い理知的な瞳と視線が重なり、リリーは不思議に思いつつも軽く会釈した。

 

「どうしたリリー」

 

「うーん、なんでもない」

 

 どこかで会ったことがあるのだろうか。記憶をたぐってもこたえは出ず、教会への道のりでリリーはこのことを忘れてしまった。

 

 

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