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 初めてリリーと会った時、ふざけたワガママお嬢だと思った。
 幼いころのリッドは、とにかく早く卒院したかった。孤児院のなにもかもが気に入らなかった。厳しい規律や、腹いっぱいにならない粗末な食事、それなのに毎日何時間も勉学と労働をこなさなくてはならなかったのだ。
 無駄に偉そうな指導員たちはもちろんのこと、正論しか吐かないアンナル司祭も気に喰わなかった。

 

 ほかの子供たちは大人の言いなりになって優等生を演じていた。事実、ラヴィス孤児院出身の少年たちは優秀だ。あれだけ勉強と労働をさせられたら賢くなるし器用にもなる。

 

 けれどやはり彼らにも個性があり、そしてふつうの家庭に育った子供よりも大幅にひねくれていた。それらはおもに、指導員らがいない場所でいかんなく発揮された。もっとも陰湿な例はいじめである。

 

 リッドもターゲットにされかけたことがあるものの、腕っぷしが強かったのでで軽くかわすことができた。ルビーとよくつるむようになったのも、その時からだ。
 その後、13歳になったルビーは卒院し、そのまま教会に入った。年下のリッドの卒院は3年後だったが、当然のごとく教会に入らなかったし、ルビーも誘ってこなかった。

 

 1週間は食える程度の金をもらい、リッドは孤児院を出た。もっとせいせいするかと思いきや、なんの感慨もなかった。
 孤児院から就職先のあっせんをしてもらうことも可能だったが、めんどくさそうだったので断った。さてこれからどうしようかと思案していた矢先、道の向こうが騒がしいことに気づいた。闘技場だ。

 

 貼り紙に「挑戦者求む! 優勝賞金100万リランガル!」とある。それだけあれば半年は遊んで暮らせる。
 リッドは当面の生活費を稼ごうと、軽い気持ちで参加した。そして、あっさりと優勝した。『術力を使ってもいい』というルールが幸いした。

 

 直後から仕事の依頼が殺到した。主に護衛の仕事だったが、中には暗殺の依頼などというヘビーなものもあった。
 犯罪まがいのものを抜いて、一番給金が高かったのを選んだ。それがリリーの護衛だった。

 

「あなたはまだ13歳だって聞いたわ」

 

 丸い瞳をキラキラさせて、リリーはいった。

 

「わたしと2つしか変わらないのに、すごいわ。尊敬する。だからリッドを一番近くで見て、いつかリッドみたいになりたいの」

 

 まじりっけのない賞賛だった。そんなもの今まで受けたことがなかったから、戸惑った。

 

 リリーは腕っぷしを鍛えたいわけではないようだ。しばらくリリーを観察していてわかったのだが、彼女は1日も早く自立したがっている。金融界で名をはせる父親の下から抜け出ることを望んでいる。父親を慕っているからこそ、自立したいようだ。

 

 三代先まで遊んで暮らせる金がありながら、あえて外で働こうとするリリーを、リッドは物好きだと思った。そして、リリーの気持ちもわからなくはないと思った。

 

 

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