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 テーブルランプの前で、ルビーが切り出した。4人は椅子に座ってテーブルを囲んでいる。ユルヤナが、扉を背にしてひっそりと立っていた。
 リッドは、ルビーがなにを言うつもりかすぐに理解する。

 

「リリーには隠していたけど、ギリスさんにはすでに有罪の判決が出ている。昨夜の君は酷く混乱していたから、あえて話さなかった。捕縛されたときにはすでに、被疑者不在の裁判が終わっていたんだ」

 

 リリーは茫然とした。穴があくほど、ルビーを凝視している。
 ルビーは続けた。

 

「刑は全財産没収だ。けれどこれは、被害額に対してとても重い。これに加えて無期の禁固刑に処されている。司法の暴走としか言いようがない。もしくは、裏で手を引いている何者かがいるか、だ」

 

 リッドの背筋が冷えた。口をはさむ。

 

「ご当主はハメられたってことかよ」

 

「……パパは両替商ギルドの代表だもの。あの性格だし、敵は多いと思うわ」

 

 リリーの指先がわずかに震えている。リッドはそれを温めるように握って、アンナル司祭を見た。

 

「教会の見解は? 司法の大暴走に眉をひそめない神様はいないだろ」

 

「もちろんだ」

 

 険しい表情で、アンナル司祭は大きくうなずく。

 

「フローヴィア市の判事長ラウノ・トーネンに抗議文を送ろう。加えてパーシャル伯爵に陳情書をしたためようと思う。安心しなさいリリー。ギリス君は私の友人でもある。必ず救いだすと約束するよ」

 

「ありがとうございます、司祭様」

 

 リリーはテーブルにひたいがくっつかんばかりに頭をさげた。
 協会は伯爵に次ぐ権力を持っている。今はアンナル司祭にかけるしかない。

 

「司祭様、提案なのですが」

 

 ルビーが言う。

 

「リエル修道院の方にも同じ働きかけをしていただくというのはいかがでしょう。僕が直接頼みに行きますから」

 

「それはいい考えですね。ぜひそうしましょう。けれど君が行くのは困りものです。マザー・リューレに叱られてしまう。ルビーやユルヤナが修道院に行くと、若いシスターがそわそわして大変なんだそうですよ。あそこへはライネン副助祭にいってもらいましょう」

 

「修道院へ行くのは僕も緊張しますよ。可愛らしい方ばかりですから」

 

 聖職者のくせにぬけぬけと言う。
 アンナルは気にせずにつづけた。

 

「でも、修道院ですか。ふむ」

 

 アンナル司祭はひとりうなずき、リリーを見た。

 

「どうですかリリー。しばらく修道院に身を隠すというのは」
「えっ」

 

 リリーは目を見張った。
 リッドはいつか言われるだろうとわかっていたので、沈黙する。

 

「ギリス君の釈放まで、数か月かかるかもしれない。いつまでもここに閉じこもってはいられないだろう。修道院で奉仕していれば衣食住も保障される。私が口利きをして、そのように手配しておくというのはどうかね」

 

「あの、でも――そうすると、リッドはどうなるんですか」

 

 リリーはこちらに視線を向けた。動揺しているようだ。

 

「リッドは大丈夫ですよ。強い男なので引く手あまただ。どうやっても暮らしていけます」

 

「そう、ですか」

 

 そのままリリーは沈黙した。
 アンナルは微笑む。深く刻まれたシワが、慈悲深くなにもかもを見透かしているようだ。

 

「すぐにこたえを出さなくてもいいですよ。それまでは必要なものは教会から届けます。心が決まったら教えてください」

 

 はい、とリリーは小さくいった。

 

 

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