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「おいルビー! おまえのテゴマは何人いる?!」

 

 教会裏の牧師館にズカズカと入りこみ、リッドはルビーの部屋を乱暴に開けた。
 ルビーは聖術師の白い会服に着替えているところだった。特に動じる様子もなく、にっこり笑う。

 

「おはようリッド。ずいぶん慌ててどうしたんだい?」

 

「リリーが出ていった」

 

 ルビーの目が、とたんに鋭くなった。

 

「何者かに連れ去られた可能性は?」

 

「そんなのオレが気づくに決まってンだろ。あいつがそっと、用心深く出ていったんだ」

 

 ルビーはうなずいた。

 

「行動力のあるお嬢さんだ。動かせるのは僕の付き人のユリと、孤児院のこども11人。あと、市街に10人ほど男手がある」

 

「今すぐ頼む」

 

 フローヴィア市の面積は15平方キロメートルほどだが、開発中の新市街を含めるともっと広い。人探しには人数が必要だった。

 

「ところでリッド。リリーが姿を消した理由に、心あたりは?」

 

「迷惑かけたくないとかなんとかぬかしてたが、行方不明になる方がよっぽど迷惑だ」

 

 リッドはイライラした。手分けして市中をくまなくさがした。元の屋敷も、牢獄も、元使用人らの実家まで。
 だがリリーはどこにもいなかった。
 ジリジリした焦燥感の中、2週間が過ぎても、彼女の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 正確にいえば、リリーは計画をたてて小屋を出たのではない。
 深夜、眠りについていると外からかすかな音色が聞こえてきた。横を見ると、リッドは床で眠っている。
 それは笛の音(ね)だった。蒼い月の夜にふさわしい、美しい旋律だ。それに、どこか懐かしい。幼いころに何度も聞いた気がするのだ。

 

 リリーは誘われるように、小屋を出た。
 ここは処刑人小路と呼ばれている陰鬱な場所だ。
 荒れた雑草に、夜露が降りている。

 

 そこに、青年が立っていた。
 旋律がやむ。横笛から唇をはなし、彼はゆっくりと微笑した。

 

「こんばんは、リリー。会いたかったよ」

 

 彼の銀髪に月光が煌めいて、幻想のようだった。
 ――どこかで、会ったことがある。
 頭の中で、記憶が閃いた。

 

「あなた、あの時の旅芸人一座の――」
「覚えていてくれてうれしいよ」

 

 青年は艶然と微笑した。
 そう、あの日がずいぶん前に感じる。
 パーシャル大市の初日に見た。そうたしか、カルピオ一座。その時ジャグラーとして技を披露していた青年だ。
 彼は最後にリリー視線を送っていた。知り合いでもないのに、なぜだろうと不思議に思ったのだ。

 

「どうしてわたしの名前を知っているの」

 

「なぜだと思う?」

 

「……わたしが、詐欺で逮捕された男の娘だと知っているから?」

 

「それはもちろん知っているよ。街中の噂だ」

 

 リリーは唇をかんだ。

 

「でも僕は君を知ったのは、もっと前だ。君が産まれたのを、風の噂で聞いた。僕は11歳になっていて、すでに一座の一員だった――」

 

 彼は懐かしそうに笑む。

 

「僕の名はフリオ。リリーが可哀想だと思って訪ねてきたんだ。なにか困っていることはないかい?」

 

 

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