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 完全な拒絶だった。
 いや、それならまだいい。それを通りこして、もう彼女の中にリリーは存在していないようだった。
 リリーはてのひらを握りしめた。
 もしかしたら自分は、イルヴァの娘だから無条件に受けいれてもらえると勘違いしていたのではないだろうか。それならば、甘ったれている。
 働くということは、そういう思いがあってはならないはずだ。
 リリーは顔をあげた。

 

「わたしを、ルツィエさんの付き人にしてください!」

 

 ジェンカがぎょっとした顔でリリーを見た。

 

「おいリリー。そこまですることないって。もうあきらめろよ」

 

「荷物持ちでも、使いっぱしりでもなんでもします。肩もみだってやります。だからルツィエさんの付き人にしてください!」

 

「あたしの付き人になってどうするんだい? 見返りなんてなにもないよ。どうしてもここで働きたいのなら、芸人見習いから始めればいいじゃないか。ここには何人かそういう子らがいる」

 

「芸人見習いの仕事もします。それに加えて、ルツィエさんの付き人の仕事もさせてください」

 

 昔、ルビーから教わったことがある。
 教会の役職者には、付き人が必ずつく。たとえば、アンナル司祭の付き人はユルヤナ、ルビーの付き人は孤児院出身のユリという少年だ。
 彼らは主に付き従い、仕事をする。そして主の仕事を見て、自分のものにできるよう努力する。彼らはやがて、司祭候補や聖術師候補として力をつけていく。

 

 リリーは深く頭を下げた。
 しばらくの沈黙が落ちる。
 やがて、ルツィエのつめたい声が落ちた。

 

「あたしの付き人になるならヘアメイク位こなしてくれないと失格だよ」

 

「――これから勉強します!」

 

 ルツィエは溜息をついた。

 

「仕方ないねェ。うちには余分に付き人ひとり雇うお金はあるのかい」

 

 ジェンカは肩をすくめた。

 

「座長は大大大歓迎してましたぜ」

 

「まあそんなところだろうね」

 

 頭を下げたままだから見えないが、ルツィエが立ちあがる気配がした。すぐ上から、声が降ってくる。

 

「顔をあげな」

 

「ハイっ」

 

 リリーはすぐに従った。
 優雅な指先が、リリーのあごをすくいとる。

 

「顔立ちは悪くないね。――いいだろう。付き人にしてあげるよ」

 

 リリーの鼓動が波打ち、てのひらに汗がにじんだ。これで第一歩だ。

 

「良かったな、リリー」

 

「君のような輝く女性が付き人など、不相応きわまりないな」

 

 ジェンカとフリオが、それぞれの顔に安堵と不満を浮かべている。
 ふと、リリーはリッドのことを思い出した。
 なにも言わずに出てきてしまった。心配しているにちがいない。夕方、うす暗くなってきたら、目立たぬようフードをかぶって一度小屋に戻ろう。

 

 

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