前へ 表紙 次へ

 

「でーきたっ!」

 

 浮遊大陸のはずれにある、瀟洒な白亜の屋敷の一室である。
 独特の苦い匂いが漂うそこから、二コラは元気よく飛び出した。
 廊下の途中で、椿(ツバキ)と桔梗(キキョウ)にぶつかりそうになり、

 

「お気をつけて、ニコラ。廊下ではくれぐれも走らないよう――」

 

 と椿から説教されそうなところを「ごめんね椿くん、桔梗くん!」とひとこと投げて走り去っていく。

 

 中庭に出ると、マナと桂花、そして黒髪の少年がお昼ごはんの真っ最中だった。
 サンドイッチをくわえながら、13歳くらいの少年はひらひらと手を振ってくる。

 

「こんにちは二コラちゃん。今日も元気そうだね」

 

「一華(イチカ)もね。相変わらずマナの小さいころにそっくり」

 

 黒い髪と金の瞳を持つ一華は、竜王と正妃の子だ。念願だった嫡子が生まれたのはつい最近のことである。
 そのためマナは王太子から外れた。マナは肩の荷が下りてほっとしているようだ。

 

 そのマナは、嬉しそうな顔をして隣の椅子を示した。

 

「お疲れさま二コラ。おなか減っただろう? ごはん食べよう」

 

「それよりも聞いて、マナ! 秘薬がやっと完成したの。マナにあげるね」

 

 丸薬が入った小さな箱を、マナに手渡した。
 地上では5年に1度の時期しか揃わなかった材料が、浮遊大陸では1年に1度のサイクルで揃うことに気づいたのは最近だ。

 

「ありがとう二コラ。いざという時に飲ませてもらうよ」

 

「へえ、これが秘薬ってやつか。なあ二コラ、オレにはないの?」

 

「ごめん桂花。材料があまりそうにないから、これはマナ限定なの」

 

「なーんだ。ていうかマナ、露骨に嬉しそうな顔すんな」

 

 二コラが浮遊大陸に来て1年が経った。
 最初は戸惑うことも多かったが、マナがいろいろとフォローをしてくれるおかげでなんとか馴染むことができている。桂花や椿など、他の竜族も力になってくれていた。

 

 また、二コラの作る薬は竜族にも効くことが分かり、今では毎日お客さんが買いに来る状態だ。
 フレッドなど、人間の定期客には週に1度くらいの頻度で地上に降りて、薬を配っている。

 

 一華が身を乗り出して、秘薬をのぞきこんだ。

 

「これが噂の薬かぁ。ねえ二コラちゃん、僕もこれ欲しいなぁ……。どうしてもだめ? 兄上以外にはあげられない?」

 

「うっ。そんな少年期のマナそっくりのカワイイ顔で言われたら揺らいじゃう」

 

「だからマナ、露骨に一華を睨むな」

 

 二コラはサンドイッチをつまんだ。
 あざやかな空に七色の虹がかかり、そこを白い鳥たちがゆっくりと渡っていった。

 

 

fin.

 

 

 

 

前へ 表紙 次へ

 

 このページにしおりを挟む
 トップページへ戻る