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 翌朝ニコラは、漂ってくるいい匂いにつられて目を覚ました。

 

(目玉焼きとパンの匂い……朝ごはん……)

 

 ぼんやりした頭で、のっそりと起き上がる。目をこすりながらダイニングテーブルの方をみたら、普段着の袍に着替えたマナが、お皿をテーブルに並べていた。

 

 マナはいつも縛っている髪をほどいている。絹糸のような黒が、銀色の生地の上をサラリと滑り落ちた。
 思わず見とれていると、マナがニコラに笑いかけてくる。

 

「おはよう、ニコラ。朝ごはんできてるよ」

 

「お、おはよ。ごめんね、寝坊しちゃった」

 

 二コラは慌ててベッドから飛び降りた。

 

「気にしないで。昨夜は疲れてただろうし」

 

 ――昨夜。
 の、ことを思い出して、ニコラの頬はいっきに熱くなった。

 

 ベッドの中で、マナに抱きしめられたあとのことだ。

 

『ま、マナ、あたし、』

 

 ニコラはカチコチに固くなってしまった。もうどうすればいいのか分からなくて、体中が大パニックだった。

 

 するとしばらく二コラを抱きしめていたマナの肩が、小刻みに震えだした。

 

『マナ?』

 

 不審に思ってニコラが聞くと、マナは腕をゆるめて横向きに寝転がった。マナは笑いをかみ殺すようにして、ニコラの頬を撫でた。

 

『ああ、まったく。二コラは可愛いな』

 

『え?!』

 

『本当に僕を育ててくれた人なのかな。竜の成熟が早いのか、それとも二コラがそういうふうなだけなのか、分からないけれど』

 

『そういうふうって、どういうこと?』

 

 ニコラはむっと眉を寄せた。幼いと言われた気がしたのだ。

 

『マナのおむつを替えたのはあたしなんだからね!』

 

『それを言われると、返す言葉もないけど』

 

 くすくすと笑いながら、マナは愛しげにニコラの髪を梳いた。

 

『でも僕は、ニコラのことが好きだよ』

 

『――ず、ずるい。今このタイミングで、そんな可愛い顔しながら言うなんて』

 

『ニコラの方が、可愛いよ』

 

 マナは二コラの唇に、優しくキスをした。やわらかな感触と、そして目の前の微笑みに、二コラは悔しく思いながらも降参する。

 

 そして、マナの首もとに抱きついた。

 

『あたしも、マナのことが大好き!』

 

「どうしたの二コラ、ぼーっとして?」

 

 気づいたら、目の前に美麗な顔が迫っていた。ニコラは思わずのけぞってしまう。

 

「べ、べつになんにもないよ」

 

「ごはん食べよう、ニコラ。こっちにおいで」

 

「う、うん」

 

「あーんしてあげようか?」

 

「?!」

 

 絶好調にご機嫌な黒竜王子は、朝から愛妻を甘やかす気まんまんであるようだ。

 

 とりあえず、今日も快晴。
 秋の風は、大空を涼やかに吹き渡っている。

 

 

fin.

 

 

 

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