ネット小説 【姫君と騎士の旅】 第1幕(7)

第1幕【6】 ネット小説【姫君と騎士の旅】 第1幕【8】

 

 ライナスの言葉に、イアンだけでなく、メイベルも目を見張った。

 

「お、おまえが?! やめておけ、無理だ! 盗賊は残忍な奴らだ、おまえの身が危ないぞ!」
「その気持ちだけ受け取っておくよ」

 

 ライナスは笑みを浮かべる。メイベルは慌てた。

 

「ライナス、せめて明るくなってからにした方がいいわ。いくらライナスでも、強い盗賊だと厳しいと思うの」
「大丈夫だよ、メイベル」

 

 いつもと違う言葉遣いに、メイベルはドキリとする。ライナスの笑みはいつも安心させてくれるが、言葉はさらに心強かった。

 

「それに彼らが残忍だとは思わない。残忍だと言うのならイアンがここで生きている理由がない。少し手当てすればすぐに回復する傷だ。ガキのすることだ、甘いんだよ」

 

 メイベルとイアンは呆然とする。ライナスは立ち上がった。

 

「足跡が残っているから、追跡は簡単だ。メイベルはここで待っているんだよ。イアン、彼女を頼む。おまえの妹と同じに、大切な娘なんだ」
「あ、ああ」
「待ってライナス、わたしも」
「メイベル」

 

 メイベルはライナスに駆け寄るが、彼は首を振る。ライナスの裾を握って、メイベルは訴えた。

 

「だめよライナス、だってわたし、夜に『儀式』をしてあげなかったわ……! 『力』を強くしてからでないと危険よ。イアンの目が届かないところまで行って、そこで――」
「しー。彼に聞こえます」

 

 ライナスはメイベルの耳に唇を近づけて、囁いた。

 

「私は大丈夫です。むしろ、あなたがついてきてしまう方が危険です。どうしても、集中が姫の方へ行ってしまう」
「そ、それならわたしのお金で、もう一度薬を買えば」
「それは一番、してはいけないことなんです。姫も分かっているでしょう?」
「でも――」

 

 メイベルは言葉を詰まらせる。ライナスの言うとおりなのだ。。貧しい民は、他にも沢山いるのだ。大勢の民を無視して、イアンにだけ金を渡すことは、王女としていけないことだ。

 

「いい子だから、大人しく待っていてください」

 

 ライナスはメイベルの頭を撫で、微笑んだ。深い紺色の瞳に思わず目を奪われる。

 

「距離にもよりますが、30分で帰れると思います。イアンの側を離ませぬよう」

 

 メイベルの髪を優しく梳いてから、ライナスは踵を返した。
 ライナスの背中を見るのは、とても不安になるから、嫌いだ。

 

「仲、いいんだな」

 

 イアンの声に、メイベルは振り向いた。木に背をもたせ、座っている。メイベルはその隣に腰を下ろした。

 

「小さい頃から知っているもの。それよりも怪我は大丈夫?」
「大丈夫だ。手当ての仕方がいいんだな。血も止まっている」
「よかった」

 

 メイベルは微笑む。ふわふわした金の髪が揺れ、イアンが眩しげに目を細めた。

 

「……綺麗だな」

 

 ぽつりとイアンが零す。メイベルは怪訝な顔をした。

 

「いや、すまない。変な意味で言ったわけじゃないんだ。ただ、金の髪や翠の目がとても綺麗だと思ったんだ。……こんなに綺麗な娘は、初めて見た」
「あ、ありがとう」

 

 顔を赤らめてメイベルは目を逸らした。城内で何度も賞賛の言葉をもらっていたが、このように素直な感想として言われてしまうと恥ずかしくてどうしていいのか分からない。

 

「あの少年も、おまえみたいな華やかさはないが、整った顔立ちをしていた。……気分を害したらすまないが、おまえたちはどんな仕事をしているんだ?」
「え、えーと。そ、それは」

 

 確か、そのようなことを聞かれた時にどう答えればいいか、ライナスから聞いていたはずだ。なのに、土壇場になると浮かんでこない。

 

「そうか……。いや、皆まで言わなくていい。すべて理解した」
「えっ?」

 

 イアンは何度も頷きながら、なにやら一人で理解してくれたようだ。

 

「苦しい商売をしているのだろう? そのような若い身空で……。いや、若い今だからこそ、しているのか。さぞ辛いだろうな……」
「え、えーと。そ、そうなのかな」
「世話になったんだ、オレが一晩買ってやってもいいんだが。もちろん、何もしないで夜を過ごすだけだ。無体な事はしない。けれど、なにせ金がないからな……。本当にすまない」
「ぜ、ぜんぜん、気にしなくていいわ。わたしたちは大丈夫だもの。毎日元気に暮してるわ」

 

 イアンの言葉の意味がサッパリ分からない。理解してくれたので、とりあえず話を合わせておく。

 

「そうか……。おまえたちは偉いな」
「そ、そうなの。わたしたち、頑張ってるの」

 

 イアンの目にうっすらと涙が浮かんでいる。いよいよ訳が分からない。

 

 

 

 

第1幕【6】 ネット小説【姫君と騎士の旅】 第1幕【8】

 

 

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