ネット小説 【姫君と騎士の旅】 第1幕(8)

第1幕【7】 ネット小説【姫君と騎士の旅】 第1幕【9】

 

 そのあと、いろいろとイアンの勘違い話に相槌を打ったり適当に合わせたりしている内に、くしゃみが3回連続で出てしまった。

 

「大丈夫か? 少し寒くなってきたな。風が強い」

 

 メイベルは両膝を引き寄せる。パタパタと、上着がなびいた。ライナスの上着だ。
 ライナスは、まだ帰って来ない。

 

(やっぱり力が出ないのかしら)

 

 『儀式』をしなくてもライナスは充分強い。けれど、イアンのようながっしりした男でも敵わなかった相手なのだ。苦戦しているのかもしれない。
 いてもたってもいられずに、メイベルは立ち上がった。

 

「お、どうした?」

 

 まだ涙目のイアンに、メイベルは告げた。

 

「ライナスを、追いかけるわ」
「おお?」
「走れば追いつくわ。やっぱり一人でなんて、行かせられない」

 

 二つの拳を握りしめ、メイベルはライナスが消えた方を見据える。ライナスが倒れていても、自分が行けばなんとかなる。そのための『契約』なのだから。

 

「よーし分かった!」

 

 腹部の包帯を押さえながら、イアンも熱く立ち上がった。

 

「オレも行く。嬢ちゃんひとりを行かせるわけにはいかない!」
「でもイアン、怪我は大丈夫なの?」
「ああ、心配は無用だ」

 

 イアンは頼もしい笑みを広げる。
 ライナスは足跡が残っていると言っていた。それを辿れば追いつけるだろう。

 

 

 

 

 時間は少し遡る。
 二人の盗賊、グレイとラルフは、先ほどの獲物から奪ったかばんを物色していた。
 場所は大きな木の根が張り出したくぼみだ。火を焚いても光が外へ漏れないため、便利なアジトとして使っている。

 

「こいつロクなもん持ってねえな畜生。ムダ足だったか」
「あっでもグレイ兄ちゃん、パンが入ってるよ。やったあ、10日ぶりのマトモな食事だね!」
「あ? 何言ってんだラルフ、昨日もその前も、てめえがオレの分までパン食いやがったんじゃねえか!」
「うん、だから兄ちゃんが10日ぶりのパン」
「とか言いつつまたてめえが食っちまうんだろ……」

 

 グレイはため息をつきつつ、かばんを探る。焚き火の照り返しが、まだ若い頬を赤く染めていた。
 二人は15と13歳の兄弟だ。2年前、村が飢饉に襲われ親に捨てられ、遠くここまで逃げてきた。以来好きでもない盗賊家業で食べている。剣も血もキライだが、金がないと生きていけない。

 

「ん? 何だこれ……」

 

 見つけたものを手に取って、グレイは眉をひそめる。明らかに、不穏なものだ。

 

「なんでただの町男が、こんなもの持ってんだ……?」
「兄ちゃん兄ちゃん」

 

 ラルフがグレイの服を引っ張った。

 

「なんだよラルフ。今ちょっと……」
「誰かいる」
「あ?」

 

 グレイは顔を上げた。

 

「つけられたか?」
「そうかも……。兄ちゃん、また跡消し歩行しなかったでしょ」
「あの歩き方めんどくせーだろ」
「そう? 簡単だと思うけど」
「細かいことばっか得意でいやがる。で、何人だ?」
「んーと、多分、一人」
「楽勝じゃねーか」

 

 グレイは剣を握る。何の飾り気もない剣だ。これも3か月前、旅人からかっぱらった。

 

「コソコソしてないで出てきやがれ!」

 

 剣を肩にかついでグレイは怒鳴る。この場所へ斬り入るには、前方の入り口しかない。背後は木の根が複雑に絡みあって半ドームを造り出しているため、足場の確保ができないのだ。
 誰も出て来ない。火のはぜる音が響き、薪が崩れた。強く風が吹いて、一瞬だけ、目をすがめた。――その時。

 

「兄ちゃん!」

 

 息を呑んだ。横薙ぎの剣閃を、己の剣で防いだのは、完全に反射行動だった。 
 いつの間に、こんな近くまで――

 

(速い!)

 

 次々に連戟が繰り出される。黒い髪の残像と、まっすぐに射抜く紺色の双眸。

 

「くっ!」

 

 凄まじい剣撃に耐え切れず、グレイの手から剣が弾き飛んだ。瞬間、みぞおちに容赦なく蹴りが入る。内臓が飛び出そうな激痛に、グレイは体を折り曲げて崩れ落ちた。

 

「兄ちゃ――」
「動くな」

 

 グレイの首に剣を突きつけ、ラルフを冷たく見据えて、

 

「オレの言うことを聞け。そうすれば命だけは助けてやる」

 

 まるで悪の親玉のようだな、とライナスは思った。

 

 

 

 

第1幕【7】 ネット小説【姫君と騎士の旅】 第1幕【9】

 

 

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