ネット小説 【姫君と騎士の旅】 第1幕(9)

第1幕【8】 ネット小説【姫君と騎士の旅】 第1幕【10】

 

 ライナスがここへ辿り着くのに、思ったより時間がかかった。
 木の根が脈のように暴れて飛び出している上に、ヘビがうようよしていて一苦労だった。森や山での鍛錬ももちろん重ねているが、野生のヘビがここまで大量発生するのも珍しい。毒ヘビでないのが救いだが……。

 

(わざと集めたか)

 

 だとすれば相当警戒心の強い盗賊だ。イアンに対するツメの甘さからして、青いガキだと思っていたが、油断してはならない。
 ……と、思っていたのだが。

 

「この、てめえっ! 偉そうにほざくなワカゾーがっ!」
「……」

 

 無様に転がり、剣を突き付けられながらも、『偉そうにほざいて』いるのは盗賊の少年である(しかも彼の方が明らかに年下)。
 ライナスは疲れた息をつく。どうやら青いガキの方が正解だったらしい。

 

「に、兄ちゃーんここは大人しく従おうよー。こいつ強いよー。荷物返しちゃおうよー」
「おまえラルフ、それでも盗賊の端くれか!」
「だって命の方が大事だもん……」
「グダグダ言ってる間に、ナイフの1本でも投げて応戦しろ!」
「ムリだよ、だってその人ぜんぜん隙ないし」
「弟の方が賢いようだな」

 

 ライナスが肩をすくめる。すると兄の方が色めき立った。

 

「何だとおまえふざけんな!」
「兄ちゃん、ここは穏便に……」
「よし、阿呆の兄は放っておいて、おまえ。ラルフという名か?」
「あ、うん……」

 

 ラルフは頷く。兄がわめいているが、ライナスは無視することにした。

 

「さっき男を襲ったな。30くらいの、屈強な男だ。そいつの荷物をこっちへ渡せ」
「う、うん、分かった」

 

 かばんの中身はさっきぶちまけてしまった。ラルフは慌てて中身を詰め、恐ごわライナスへ近づく。

 

「これ……。荷物、全部だよ」
「中身を一つずつ並べろ」
「う、うん」

 

 ラルフはぎこちなく、かばんの中身を再び外へ出し、並べていく。薬がちゃんと入っているか確認するためだ。ライナスは無言でラルフの作業を見下ろしていた。

 

(子どもの盗賊、か)

 

 ラルフの小さな手は、傷だらけで泥にまみれている。一瞬だけライナスの表情に影がよぎった。

 

「おい、ちょっと待てよ!」

 

 兄の方が、一段と声を張り上げた。ライナスは視線を移す。

 

「うるさいぞ」
「そのパンは置いてけ! おまえみたいな上等な剣持ってる奴なら、幾らでも買えるだろうがっ」
「に、兄ちゃん」
「……」

 

 ライナスは無言で荷物を見下ろす。丁度パンが二つ、地面に並べられたところだった。

 

「兄ちゃんいいよ、僕パンなんて食べれなくても、木の実とかで我慢できるよ」
「おまえは黙ってろ! いいか若造、刺すなら刺してみやがれ、盗賊やろうとした日からそれくらいの覚悟はできてンだよ! そのパンはラルフのもんだ! おまえのじゃねえ!」
「……。おい、ラルフ。残りを並べろ」
「は、はい」

 

 ラルフは慌てて作業を再開する。次に出てきたものは瓶詰めの薬だった。

 

「わかった、もういい。あとは全部かばんに詰めて、こっちへ寄越せ。……パン以外だ」
「え、えっ?」

 

 ラルフが動揺して、兄の方も目を見開いている。ライナスは剣を引き、かばんを持ち上げた。

 

「これが欲しかっただけだ。あとは好きにしろ」
「あ、う、うん……」

 

 呆然とラルフが頷いて、兄の方が上体を起こす。ライナスは背を向けて歩き出した。パンくらいなら市場で買ったものを入れておけばいい。

 

「ちょっと待てよ! そのかばん、あんたのか?」
「違う」

 

 ライナスはそっけなく答える。迷うような沈黙があった後、再び声が届いた。

 

「そのかばんの一番下に、ちょっとヤバいのが入ってたんだ。持ち主とあんたにどういう関係があるのか知らねえけど、警戒した方がいいと思うぜ」
「ヤバいもの?」

 

 ライナスは振り返り、眉をひそめる。兄は神妙な顔で頷いた。

 

「気をつけた方がいいぞ。もしオレの想像が当たってれば、その持ち主は、相当ヤバい殺人者だ」

 

 

 

 

第1幕【8】 ネット小説【姫君と騎士の旅】 第1幕【10】

 

 

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