ネット小説 【姫君と騎士の旅】 第2幕(1)

第1幕【12】 ネット小説【姫君と騎士の旅】 第2幕【2】

 

 よく晴れた日に、フードつきのマントは不自然だが仕方ない。

 

「メイベル王女の第一騎士、ライナス・エオウィンだ」

 

 メイベルはなるべく顔を伏せて、ライナスの一歩後ろに立っていた。金の髪が零れないよう、後ろでくくっている。

 

「エ、エオウィン家の……! よ、ようこそいらっしゃいました!」

 

 軍人は驚愕し、最敬礼を取る。薄暗く、ものものしい廊下。見張りは彼だけだった。
 ライナスは、自分よりも年上の軍人に、淡々と語る。

 

「火急の用件がある。アーネスト・カーター中佐にお会いしたい」
「かしこまりました! 少々お待ちください!」

 

 慌てて廊下の奥へ消えていく。ライナスがそっとこちらを振り返った。

 

「アーネストには絶対にバレますから、覚悟しておいてください」
「わかっているわ。ライナスの従兄弟殿ですもの。何度か会っているし」

 

 フードを目深にかぶり、さらにマントで口元を覆っている。第一騎士が、見るからに怪しげな女を連れ歩いていると醜聞だ。メイベルは心配したが、ライナスはいっこうに気にする気配がない。

 

「これ以上、蛇やトカゲに追い回されるのはごめんですからね」

 

 廊下の奥から、軍服姿の少年がまっすぐに歩いてくる。まだ歳若いが、凛とした足取りは確かに、優れた軍人のものだった。

 

「禁術書をアーネストに押しつけて、さっさと旅を再開しましょう」

 

 

 

 

 カルクの村からだと、アルデアの砦(とりで)が一番近かった。
 村で一晩の宿を乞い、それからメイベルたちはここへ来た。門番はライナスを知っていたようで、最敬礼して中へ入れてくれた。先ほどの軍人の反応を見るにつけても、第一騎士というのは、やはり身分が高いらしい。

 

「久しぶりだな、ライナス!」

 

 赤と白の軍服。胸に獅子の紋章が縫いとめられている。サウスヴァール王国の国旗だ。
 アーネストは笑顔でライナスを迎えた。聡明で快活。ライナスと同年で、軍人の名門カーター家の長男だ。武の才能に愛され、若くして中佐となり、アルデアの砦を任された。

 

「ああ、久しぶりアーネスト。立派な砦だな。ここの主とは恐れ入るよ」
「ナリばかり大きくて困り果ててるよ。立ち話もなんだし、オレの部屋へ来ないか? お茶を運ばせよう。……と、そちらのご婦人は?」

 

 アーネストがこちらへ目を移す。メイベルは周囲に誰もいないことを確認してから、そっとフードを取った。

 

「こんにちは、アーネスト。元気そうでよかったわ」
「……。驚いたな」

 

 アーネストはゆっくりと目を見開いた。それからふと気付いて片膝をつき、礼を取る。

 

「失礼致しました。姫さまにおかれましては御身お美しくご健勝のこと、誠にお慶び申し上げます。本日は我が砦にお越し下さり、法外の誉れにございます」
「わたしも会えて嬉しいわ。あのね、アーネスト。今日はお忍びだから、普通にしてもらえるかしら」
「お忍び、と申しますと?」

 

 メイベルは再びフードをかぶる。アーネストは言われた通り立ち上がりつつ、首を傾げた。

 

「それは言えないの。ごめんなさい。わたしは病気で、静養していることになってるから、他の人には内緒にしてくれるかしら」
「仰せのままに」

 

 メイベルの苦しい言い分に、アーネストは深く聞かず、微笑んだ。この辺り、ライナスに似ているような気がする。名門一族の長子の特徴なのだろうか。

 

「しかしこのような偶然もあるのだな。実は今、王子もここにいらしているのですよ」

 

 メイベルは目を見開く。サウスヴァールの王子は4人いるが、なんとなく、一番最悪の予想が当たってしまう気がした。

 

「第一王子のマルセルさまです。姫と王子が一度にいらっしゃるなんて、縁起がいいな」

 

 顔が引き攣ってしまった。
 やはり予感は的中したようだ。

 

(姉上は女王に、ふさわしくない)

 

 断罪の目。優秀な弟は、メイベルを嫌っている。

 

 

 

 

第1幕【12】 ネット小説【姫君と騎士の旅】 第2幕【2】

 

 

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