ネット小説 【姫君と騎士の旅】 第3幕(6)

第3幕【5】 ネット小説【姫君と騎士の旅】 第4幕【1】

 

 初日からずっと、晴天に恵まれていた旅も、ここでついに曇天である。
 出発前に、雨天用のフードマントを2着買った。路銀は充分で、次の町では客室に泊れそうだ。

 

「発作?」

 

 次の町へ続く街道を、二人は歩く。早朝のためか、人影はない。

 

「以前、お母さまからお聞きしたことがあるわ。それがライナスにも起こっているのね」
「はい、そうです。ご心配をお掛けしたくなくて、今まで黙っていました。申し訳ありません」
「いいの。わたしの方こそ気づかなくてごめんなさい……。でもライナス。最近おかしかった理由は、それだけじゃないでしょう?」
「えっ?」

 

 ライナスはギクリとする。普段は天然のくせに、変なところで聡い。

 

「だってそれだけのことでライナスが、我を見失うくらい取り乱すなんて、ありえないわ」
「取り乱すって……。もう少し別の言い方はありませんか」
「だって本当だもの」

 

 ライナスは息をつく。適当なところで誤魔化そうとしたが、どうやら無理のようだ。

 

「本当にオレが恐れているのは、禁断症状です。中毒症になり、四六時中姫の血を求める狂人になってしまわないか、気がかりなんです」

 

 だから少しだけ、答えを外す。嘘ではなく本当に、その可能性も残されている。
 メイベルは意外そうに、目を見開いた。

 

「なぁんだ、そんなことで悩んでいたのね。ライナスらしいけど、らしくないわ」
「でも私が禁断症になってしまうと、姫は怖いでしょう?」
「全然怖くないわ」

 

 にこりとメイベルは笑う。ライナスは面食らった。

 

「そんなことはないでしょう。現に昨日、あれほど怯えていらっしゃったじゃないですか」
「だって昨日のライナスは意地悪だったもの。苛めてやるって顔に書いてあったのよ。悪魔の顔よ」
「あ、悪魔ですか」
「ライナスの悪魔バージョンは怖いけど、血を欲しがるライナスは、ただの『ライナス』だわ」

 

 ライナスは言葉に詰まる。ぽつりと、雨が一粒落ちた。メイベルにフードをかぶせると、メイベルはライナスの手に、自身のそれを重ねた。

 

「ライナスである限り、わたしは何度でも、許し続けることができるの。だから大丈夫。ライナスの強さはわたしが一番知ってるのよ」
「オレの、強さ……?」
「ライナスは絶対に、負けない」

 

 メイベルの微笑みは、7年前の夜と、変わらない。

 

「発作にも、禁断症にも、負けないわ。だってライナスは、信じられる強さを持っているもの」
「姫――」

 

 胸が、締めつけられる。
 自分にはその強さが見えない。けれどメイベルには見えるという。ならば彼女を信じよう。何ものにも負けない強さが、自分の内にあることを。

 

 

 

 

第3幕【5】 ネット小説【姫君と騎士の旅】 第4幕【1】

 

 

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