ネット小説 【姫君と騎士の旅】 終章

第4幕【14】 ネット小説【姫君と騎士の旅】 後日談 -訪問記- その1

 

 一面の、花畑だった。
 メイベルは歓声を上げた。色とりどりの花が咲き乱れていた。甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。村人から噂を聞いて、森の奥へ進んだ。その先に、この花畑が開けたのだ。

 

「なんて素敵なの! ウィリアムとスチュアートにも、教えてあげたいわ」

 

 花の絨毯に寝転がり、メイベルは笑う。彼女を見つめながら、ライナスは笑みを浮かべた。

 

「きっと喜ぶでしょうね。あいつらはまだまだガキだから、歓声とともにそこらを駆けずり回りそうだ。二人同時にすっ転ぶさまは、さぞ見物でしょうね」
「もう、ライナスはまたそんなこと言って」

 

 メイベルは上体を起こして、頬を膨らませる。

 

「今日はせっかく、あの子たちの家に泊まりに行くのに……。あの子たち、せっかく元気になったのに、またいつもみたいにケンカするの?」
「ウィリアムじゃ子供過ぎて、ケンカにもならないですよ。ほら、姫。花びらが」

 

 ライナスの指が、メイベルの頭へ伸ばされる。桃色の花びらを取って、光に透かした。

 

「――綺麗だな」
「ねえライナス。ここならウィリアムたちは、人目に晒されずに来れるかしら?」

 

 ライナスは一瞬沈黙した。
 彼らに『聖弾』の使用許可は下りなかった。実行犯の彼らが元の姿に戻れる日はおそらく、ずっと来ないだろう。メイベルがどんなに頼んでも、教会は首をたてに振らなかった。
 不安げに揺れる翆玉へ、ライナスは笑みを浮かべる。安心させるように、髪を撫でた。

 

「大丈夫ですよ。森は深い。村人もめったに行かないと言っていたじゃないですか」
「そう。そうよね。良かった……」

 

 メイベルは安堵の息をつく。眩しげに見つめながら、ライナスは言った。

 

「姫」
「はい?」
「抱きしめてもいいですか?」

 

 沈黙した後、メイベルの頬がみるみる湯立った。

 

「ら、らいなす……っ」
「はい」

 

 ライナスはとろけるような笑みで答える。いつもは問答無用で抱きしめてくるから、改まって尋ねられると、どうしていいか分からない。メイベルはさらに頬を上気させたのち、顔をうつむかせて、答えた。

 

「いいです、よ」

 

 言い終わるが早いか、メイベルの体は力強い腕に包まれた。
 頬が、ライナスの胸に押しあてられる。ライナスの匂いが広がる。眩暈がするほど、幸福な香り。

 

「……姫」

 

 甘くとけた低音が、耳元に響く。
 熱を帯びた腕。それとは対照的な、優しい唇が、額に、瞼に、頬に、押しあてられる。

 

「愛しています。ずっと……永遠に」

 

 それから、胸を締めつけるようなぬくもりで、唇を重ねた。

 

 

 

 広がってゆく鮮やかな空。
 彼らの旅はまだ、始まったばかりだ。

 

 

 

 

第4幕【14】 ネット小説【姫君と騎士の旅】 後日談 -訪問記- その1

 

 

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