ネット小説 【姫君と騎士の旅】 後日談 -訪問記- その2 教会士の場合

後日談 -訪問記- その1 ネット小説【姫君と騎士の旅】 後日談 -訪問記- その3

 

「えっ、おまえら正式にくっついたのか?」

 

 お菓子袋を取り出しつつ、シリルが目を丸くした。メイベルはきょとんとして、まばたきを返す。

 

「くっついたって、どういう意味?」

 

 シリルは衝撃を受けたのち、ライナスがの襟首をひっつかんで耳打ちした。

 

「おまえ何やってんだよ! あんな訳わかってない女たぶらかすなんて、男の風上にも置けねえぞ」
「馬鹿かおまえは。訳わかっていない姫だからこそ、あんなにも愛らしいんじゃないか」
「真顔で言うな! 第一身分差はどーすんだよ。姫と騎士じゃ、結婚なんて無理じゃねえか」
「姫のお心が私にあると分かった時点で、すべてクリアになった。何も問題ない」
「あの怖そうな弟はどうすんだよ。権力で国外追放されるぞ」

 

 そこでライナスは、不気味に笑んだ。

 

「ふふ。それに関しては一計を用意している。聞きたいか?」
「……。いや、いい。なんか分かんねえが、夢に出そうだ」

 

 ろくでもない計画に違いない。マルセル王子の安否を気遣いつつ、シリルはライナスから手を離す。ライナスは鼻で笑った。

 

「おまえごときでは理解できないだろうな。私と姫の、絆の深さは」
「へいへい」
「二人とも、そんなにくっついて会話して……。良かったわ、仲良くなって。最初はケンカばかりで、どうしようかと思ったもの」
「ええ。シリルは最高の男です。良い友人にめぐり会えて本当によかった」
「変わり身早いなオイ」

 

 きっとメイベルの位置からは、会話の内容までは聞き取れなかったのだろう。けれどどう見ても不穏な空気が流れていたと思うのだが、気付かないのは天然姫の特徴か、特権か。
 嬉しそうに、ライナスに語りかける少女の横顔。シリルは苦笑した。こんなにも幸せそうなら仕方ない、と思ってしまう。
 自分は教会の人間だから、王家との繋がりは薄い。だから一番、しがらみなく感情論で、ものが言えるのかもしれない。
 それならば。

 

「よかったな、メイベル」

 

 シリルは彼女のやわらかい髪をくしゃっと撫でた。

 

「ライナスとまた、旅ができて」

 

 メイベルは笑って頷く。 あの部屋で、この少女が迷わず決意したことを、シリルは知っている。目覚めたとたん、自分を襲うかもしれないライナスを、救うと決めたのだ。
 せめて自分くらいは、手放しで祝福してやりたいと、思う。
 と、その時隣から、すでに慣れ親しんだ殺気を感じて、後ずさった。

 

「……シリル。おまえ、何を触ってる」
「いや違うぞライナス。オレはおまえとメイベルがめでたく恋人同士になったのを、祝福しただけで」
「おまえの祝福などいらん」

 

 まずい、とんでもなく不機嫌だ。この嫉妬深さは、まだ片想いだったころの、余裕のなさから出てくるものだと思っていたが、どうやら真性だったらしい。
 今後、レイオンの代わりとして婚約者候補に挙がるであろう人物に、シリルは深く同情した。無事、天寿をまっとうできればいいが……。

 

「なんだかよく分からないけど、祝ってくれてありがとう、シリル」
「姫、さっさと旅を再開しましょう」
「えっ、今日は泊まらせてもらうんじゃないの?」
「ヘンリエッタが遊びにくるからオレたちが邪魔だと、さきほど口汚く罵倒されました」
「そんな……」
「ああもう、どうとでも言ってくれ」

 

 シリルは諦めの境地に立った。
 がっかりしているメイベルを慰めながら、ライナスは帰り支度を始める。
 性格に問題は多々あれど、この男以上にメイベルを護れる者はいないだろう。体を張るどころか、呼吸をするように当然に、精神も命も賭ける男だ。

 

「それじゃあ行くね、シリル。ヘンリエッタによろしくね」
「いやヘンリエッタは別に来ねえけど……まあいいや。またいつでも来いよ」
「結婚式には呼んでやってもいいぞ」
「結婚する気かよ!」
「二人とも、本当に仲良くなったわね。ライナスにアーネスト以外のお友達ができて、嬉しいわ」
「はい、シリルは親友です」
「何度同じツッコミをさせる気だ」

 

 それでもこの二人は、これからも噛みあった歯車のように、一緒にいるのだろう。
 扉を出ていく二人の背中を見て、シリルは苦笑した。気に食わない男だが、もし姫と歩く道筋に障害があって苦しんでいたら、力になってやろうと思う。
 彼ならば、障害を障害とも思わないだろうが。

 

「頑張れよ。メイベル、ライナス」

 

 シリルは笑みを浮かべる。
 扉に寄り掛かりながら、道の先へ二つの影が消えるまで、見送った。

 

 

 

 

後日談 -訪問記- その1 ネット小説【姫君と騎士の旅】 後日談 -訪問記- その3

 

 

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