ネット小説 【姫君と騎士の旅】 後日談 -訪問記- その3 少女騎士の場合

後日談 -訪問記- その2 ネット小説【姫君と騎士の旅】 後日談 -訪問記- その4

 

「誕生日プレゼント、ですか?」

 

 リネット・エオウィンは大きな目をさらに丸くして、首を傾げた。
 王国の首都、アウル。王城からほど近い場所に、エオウィン邸はある。名門騎士家の立たずまいにしては、3階建ての屋敷は狭く見えるが、それには理由があった。いざという時、王族を守り逃がすため、地下を迷路のように広く作っているのだ。地下通路は王国の要所と繋がっているらしいが、リネットでさえ、全ての通路を把握できていない。
 リネットはエオウィン家の長女だ。長子ライナスの妹であり、第一王子マルセルの、小さな第一騎士である。

 

「そうですねぇ。もっと時間がほしいとつねづね仰られていますから、一番嬉しいのは時間をプレゼントすることではないでしょうか」
「そう、マルセルは忙しいのね……。可哀想だわ。でも時間は市場に売ってないし、どうすればいいのかしら」

 

 メイベルが真剣に悩んでいると、リネットがぽんと手を打った。

 

「いいことを思いつきました。姫さまが時間をあげればいいんですよ。マルセルさまと過ごす時間です」
「わたしが、マルセルと? でも喜んでくれるかしら。わたしはいつも、あの子をいらいらさせてしまうし」
「でもマルセルさまは姫さまのことが大好きですから、きっとお喜びになりますよ」
「えっ、違うわ反対よ。わたしはマルセルのこと大好きだけど、マルセルはわたしのことを嫌っているもの……」
「そんなことないですよー。だって姫さまから手紙が来た日には、マルセルさまはすごくもがもが」
「姫の貴重な時間が欲しいなど、王子はわがままですね。姫。この際、プレゼントはなしにして旅の続きをされてはいかがでしょう」

 

 横からリネットの口を塞ぎつつ、ライナスが言う。その様子を仲むつまじい兄妹愛と解釈しつつ、メイベルは首を振った。

 

「だめよ。あの子の誕生日は毎年祝ってるもの。いくら旅の最中だからといって、なしにすることはできないわ。ライナスも、リネットのお誕生日には王都に戻りましょうね」

 

 メイベルの言葉に、兄妹はなぜか愕然とした。

 

「兄上がわたしを祝う……?!」
「私がリネットを祝う……?!」
「え、ええ……。だってわたしとマルセルと同じ、兄弟なのだし」

 

 おかしなことを言っただろうか。メイベルが戸惑いの表情を浮かべると、即座にライナスは気を取り直した。

 

「いえ。慈悲深いお言葉に、感銘を受けました。ありがとうございます。リネットの誕生日が楽しみです」
「そんな。兄が妹を祝うのは当たり前のことよ。お礼なんて言わないで、ライナス」
「姫さま、当たり前じゃないですよ。兄上は今まで姫さまの誕生日以外、誰のもお祝いしたことなもがもが」
「姫、マルセル王子へのプレゼントについて考えましょう」
「え、ええ……。でもライナス、その前にリネットの口から手をどけてあげて。苦しそうだわ」

 

 そんなこんなで色々と意見を出し合い、プレゼントは決定された。
 満足そうに紅茶を飲みつつ、メイベルは口を開く。

 

「そういえばジョシュアは元気? もうずいぶんと会っていないけれど」
「父上ですか? それはもう、元気に女王さまの騎士をつとめております。あ、そうそう兄上」
「何だ」

 

 若干不機嫌そうに、ライナスは視線を投げる。

 

「父上が怒っていましたよ。騎士のなんたるかが分かっとらん、って。ほら、姫さまとお城でいちゃいちゃしてたから」
「ちっ」

 

 ライナスは低く舌打ちした。メイベルは形のいい眉を、悲しげに寄せる。

 

「あの優しいジョシュアが怒るなんて、余程のことね。わたしにも責任があるのかしら。ジョシュアは今どこにいるの? わたし、謝りに行くわ」
「姫……」

 

 ライナスも悲しげな顔をしているが、内心では、しょぼんとするメイベルの愛らしさを堪能しているだけである。長年の付き合いだ、リネットは熟知している。

 

「姫が気になさることなどないのです。悲しまないでください」
「兄上の言う通りですよ姫さま。悪いのは兄上ただ一人もがが」
「姫が気に病まれるのでしたら、今から私が父上と直接話してきましょう」
「でも、ライナスとジョシュアがケンカになったら悲しいわ」
「大丈夫です。父上はきっと、誤解なさっているだけですよ」

 

 ライナスは優しく微笑んだ。この表情が、父の前ではどのような変貌を遂げるのか、想像するだけで怖い。 ライナスのてのひらからやっと解放され、リネットは軽く咳き込んだ。

 

「リネット」
「なんですか、兄上」
「父上と話をつけてくる。居場所を教えてくれ」

 

 ――目が、怖い。
 子供たちを海よりも深く愛している父が、無事でいるように祈りながら、リネットは窓の外を指差した。
 中庭だ。

 

 

 

 

後日談 -訪問記- その2 ネット小説【姫君と騎士の旅】 後日談 -訪問記- その4

 

 

 このページにしおりを挟む
 トップページへ戻る