ネット小説 【姫君と騎士の旅】 後日談 -訪問記- その4 中佐の場合

後日談 -訪問記- その3 ネット小説【姫君と騎士の旅】 クリスマス企画2013 掌編

 

 ライナスが部屋を出ていってしまったので、メイベルはリネットと、のんびりお茶を飲んでいた。
 どうやら中庭では、父子の感動の再会が繰り広げられているようだ。

 

「あ、そうだ。姫さま、もうすぐアーネストさまも来ますよ」
「そうなのね。久しぶりだから嬉しいわ」
「姫さまたちが来るって言ったら、ぜひお会いしたいって。最近、マルセルさまとアーネストさまの仲がよくて、しょっちゅうお城とか、この屋敷に来るんです」

 

 メイベルは意外に思った。マルセルは自分にも厳しいが、他人にも辛辣なので、あまり友達がいない。実姉のメイベルさえ遠ざけて、近くに置くといえば、第一騎士のリネットだけだった。
 そういえば、ライナスも友達は少ない。けれどアーネストとだけは仲良くしているようだ。どうしてアーネストばかりなのだろう。
 と、噂をすれば、当人が現れた。

 

「姫さま、失礼致します。アーネストにございます」
「アーネスト! 会えて嬉しいわ。いいのよ、立って楽にして」

 

 礼を述べ、アーネストは立ち上がる。
 ライナスやリネットは、基本的に王属に対してフランクだ。エオウィン家直系の特例らしい。だが傍系のカーター家はそうもいかないようだった。
 ただアーネストは、カーター家の中でもフランクな方だ。

 

「姫さま、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」
「ありがとう。ライナスも元気よ」
「ああ、先程庭ですれちがいました。確かにすこぶる元気そうでしたね」
「ライナス、お父様に会えて本当に嬉しいのね」
「そうですね。叔父上……ヨシュアさまも、涙を流してうなだれておいででした」

 

 アーネストが無害な笑顔で言うものだから、メイベルはうっかり『うなだれて』を聞き逃す。

 

「今日は夜にマルセルも来るの。もしよかったらアーネストも一緒にいてほしいわ。今日はマルセルの誕生日なの」
「はい、存じあげております。お招き頂きありがとうございます」
「プレゼントの用意を、夜までにするからアーネストも手伝ってくれるかしら?」
「喜んで」

 

 アーネストは笑みを浮かべる。彼はいつも、人当たりよく嫌味がない。

 

「アーネストは、マルセルや、ライナスとも仲がいいけれど、どうして?」
「どうして、と言いますと?」
「わたしはライナスとは仲良しだけど、マルセルとはあまり仲良くできないの。わたしは大好きなのだけど……。何か秘訣があるなら教えてほしいわ」
「秘訣ですか。まさかそれを姫に尋ねられるとは」

 

 なぜかアーネストはクスクスと笑い出した。

 

「姫は私から、何も教わらない方がいい。逆に変えてしまえば、私が王子に叱られてしまいます」
「それが本当なら嬉しいのだけど、とてもそうとは思えないわ」

 

 メイベルは溜め息をつく。アーネストは目を細めた。

 

「そうですね。例えば姫が女王になられた時、政治を王子に、軍部をライナスに一任して、大人しく椅子の上で護られていれば、王子に邪険にされることも、ライナスに心配されることもなく、穏やかに日々が過ぎていきますよ」

 

 リネットがぎょっとして、紅茶をこぼしそうになった。
 一方メイベルは、一瞬きょとんとしたが、その後邪気のない笑みを浮かべた。

 

「アーネストったら、おかしな冗談ね」
「そう思われますか?」
「なんとなく、アーネストがマルセルと仲良しな理由がわかったわ」

 

 アーネストはきょとんとした顔をする。メイベルは微笑んだ。

 

「基本的に、意地悪ね」

 

 

 

 

 

 しばらく談笑していると、ライナスが戻ってきた。アーネストは苦笑しつつ、椅子をすすめた。

 

「首尾はどうだ? といっても、おまえが折れるはずはないが」
「予測通りだ。父上は泣いておられる」
「おまえはとことん孝行者だな」

 

 ライナスは椅子に座り、メイベルに微笑みかけた。

 

「お待たせ致しました。そろそろお疲れではないですか? 部屋をご用意していますが、お休みになられますか」
「ありがとう。でも、マルセルがもうすぐ来てしまうから、準備をしなくてはいけないわ。今からリネットと頑張ろうと思ってるの」
「ああ、そういえばもう夕方ですね。では私はアーネストと外の準備をして参ります。姫、お疲れになったら休憩をお取りください。リネットでしたら雑巾のようにコキ使って頂いても全く構いませんので」
「………………」
「そんなことしないわ。ライナスも、意地悪な冗談が好きなのね」  

 

 クスクスと、メイベルは笑う。
 ライナスが冗談を言っていないことを、彼女以外は全員知っていた。

 

 

 

 

 中庭に、パーティの準備が着々と整っていった。
 使用人の手はなるべく借りないようにした。広いテーブルに、メイベルとリネットが作った料理が並んでいく。

 

「シリルやヘンリエッタも呼べばよかったわ。人数は多い方が素敵だもの」
「マルセルさまにはこれくらいの人数がちょうどいいですよ。あんまり多いと、疲れすぎて眠れなくなるんです」
「マルセルに限って、居眠りはしないでしょう?」
「みなさんそう思われていらっしゃいますが、実は器用に居眠りするんです。仕事してるフリして寝てたり。わたしも最初は騙されました」

 

 メイベルは目を丸くする。そうこうしているうちに、マルセルが到着したようだった。

 

「マルセル、喜んでくれるかしら」
「楽しみですね」

 

 姫が祝ってくれるのに、マルセルが喜ばないはずはない。たぶん、例によって顔には出ないのだろうけれど。
 ふいに、リネットは小さな淋しさを感じた。けれど今は必要のない感情だったため、奥底へしまいこんだ。
 なにしろ今夜は、パーティなのだ。

 

 

 

 

後日談 -訪問記- その3 ネット小説【姫君と騎士の旅】 クリスマス企画2013 掌編

 

 

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