表紙
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「あー疲れた。戦争は疲れるなぁ。オレ15歳なんだぜ。まだ1年目だけど、出陣は2回目。多いと思わねぇ?」

 

 そう言って、少年兵はあくびをする。確かラジーという名のはずだ。
 アルマの手はまだこわばっている。
 力強い腕だった。自分がいかに危険な場所に知るのかを思い知らされた。

 

「アルマだっけ。なんで地下にいたの? すっげー悪いことしたの?」

 

 さっきからまるで友人に対するような喋りかたである。
 アルマは首をふった。

 

「あたしは何もしてない。それより聞きたいことがあるの。牢屋にいた他の人たちは本当にみんな死んでたの?」
「うん。みんなつっても2人だけだったけど。男と女が1人ずつで、男はアニキくらいの歳。女はオバサン」
「……そう」
「そういや死に方がヘンだったなぁ」

 

 ラジーが首をかしげる。アルマは消え入りそうな声で、なに、と聞いた。

 

「あの2人どうやって死んだんかなって。それぞれ別の牢だったんだけどさ、斬られた後がなかったんだよ。カギもそのままだったし。あ、でも血吐いてたから毒でも盛られたんかな」

 

 アルマは目を閉じた。
 ――これが現実だ。
 だから、心臓が血の涙を流しても、歯を喰いしばってでも立ち向かわなくてはならないのだ。

 

 

 

 

「失礼します、班長」
「おう、失礼しちゃっていいぞ」

 

 相変わらず気楽そうな声だ。幕を上げるとカイト・ランドルフ班長は木製のマグカップを手に、つみあがったワラの上でくつろいでいた。

 

「酒くさいですね」
「おまえも呑むか?」
「まだ戦争は終わってません。勝利の杯には早いですよ」
「なーに、オレたちは特殊任務を成功させた精鋭中隊の一角だ。仕上げは他のやつらに任せて、のんびり高見の見物でもしようぜ」
「また副長に呆れられますよ」
「あまりになじみ過ぎて、ヤツの呆れ顔はむしろ快感だ」

 

 カイトは笑った。
 ラルフよりも2つ年上の20歳だが、体格はがっしりとでき上がっていて、背もずいぶん高い。

 

「班長。ラジーが娘を一人連れてきたことをご存知ですが。城の地下牢に入れられていた娘です」
「いや、知らん。何だあいつ、また勝手にウロウロしてたのか。じっとしとれんやつだな」
「その娘、自分はウォード人だと言っているのですが、外見がウォード人ではないんです。蜂蜜色の肌に緑の目で、髪は黒。もしかしたら混血かもしれません。あと身なりがいいです。そこそこの家の出だと思われます」

 

 ふむ、とカイトは言う。ラルフは続けた。

 

「問題は、彼女が城の地下に捕えられていたということです。普通の罪人では、ありえません」
「つまり重罪人、もしくは捕縛自体が極秘に行われたということだな」

 

 ラルフはうなずく。

 

「おそらくそうかと。王族に害をなしたか、もしくは重大な叛逆罪を犯したか――」

 

 そこでふと、ラルフは『ある事実』に思い当たった。
 しかしまさか――。
 言葉を失っていると、カイトが口を開いた。

 

「その娘の名は?」
「アルマ・リウ。ただこれは偽名かもしれません。年は16、7くらいです」
「重大な罪、か……」

 

 カイトは黙りこんだ。ラルフと同じ考えに思い当たったのだろうか。

 

「よしわかった。この件は戦況が落ち着いたらオレから上に報告しておこう。それまではおまえが責任もって彼女を『保護』しておけ。班のキャンプ内であれば連れ歩いてもかまわん。ラジーには口止めしてあるな。他のやつらには戦渦に巻きこまれた移民を保護したとでも言っておけ」
「了解です」
「牢にいたのはその娘一人か?」
「他にも二名いたようです。死んでいたそうですが」
「そうか。下がっていいぞ」

 

 ラルフは一礼してテントを出た。
 のどの奥が重々しい。もし自分の予測が正しければ、アルマは重犯罪の関係者だ。
 息をつき顔を上げると、そこにはありえない光景があった。

 

 ラジーが能天気な顔でアルマと外を歩いている。アルマの表情は固いけれど、ラジーの話にあいづちを打っているようだ。
 しかも手縄を外している。ラルフはすぐラジーにつめ寄った。

 

「ラジー、おまえいったい何をしている」

 

 アルマは表情をこわばらせ、サッとラジーの後ろに隠れた。ラジーはチビだが、アルマはさらに小柄なので簡単に隠れてしまう。
 のどの奥がさらに重くなった。

 

「アニキがにらむと怖えーからやめてくださいよー。ヒマだから散歩してただけっス」
「縄はどうした」
「赤くなって痛そうだったし。可哀想じゃないスか」

 

 それなら仕方ないかと同意しそうになって、ラルフは口をつぐんだ。

 

「腹へったから食堂のテントに行こうかと思って。アニキも一緒に行きましょーよ」

 

 ラルフはアルマに視線を移す。だが見えたのは、ラジーの向こう側にある黒い頭頂部だけだった。
 ラルフは反射的に「行く」とこたえていた。

 

 

 

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