表紙
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 カイト班の区内には兵士用のテントが6つある。
 班長のカイトは1人で1つを使っているが、他は2人で1つを共有していた。

 

「アルマもここで寝るんスか? この狭いとこで?」

 

 ラジーが目を丸くした。
 アルマはすみの方で立ちすくんでいる。

 

 ラルフとしても、アルマはジーナたちのテントで寝かせるべきだと思う。だが逃亡の可能性などを考えるとそれはできない。
 となると、残りの選択肢はキャンプ内にオリを持ってきて外で監禁しておくか、もしくはラルフのテントに入れて監視する方法になる。冷たい風が吹きすさぶ夜に、彼女を放置することはできなかった。

 

「ワラとシーツ敷きましたよー。オレどこで寝ればいいの?」
「端だ。真ん中にアルマを挟んで寝る」
「ハーイ」

 

 ラジーは基本的にガキだ。15歳といったらもう女性に興味津々な年頃のはずだが、一向にそんな気配はない。
 だから何のためらいもなく、自分の隣にアルマを手招きしている。
 アルマは嫌そうだったが(当然だとラルフは思う)渋々こちらへ来た。

 

「……少し狭くない? 体がくっついちゃうわ」
「しょうがねーじゃん、オレらに個室なんてもらえるわけねーもん。それにくっついてるといいコトあるぞ。寒さに震えなくてすむ!」
「まだそんなに寒い季節じゃないわ」
「まじで? さすがウォード人、寒いのに慣れてンだなー」

 

 2人が会話をしている間、ラルフは黙々と毛布を広げたり布をたたんで枕を作ったりしていた。こちらはラジーのようなガキではないのだ。とにかく気を紛らわせなければならない。
 しかしラルフは重大なことに気が付いた。毛布が2枚しかない。

 

「……」
「アニキどーしたの? ああ毛布? じゃあ下っ端のオレとアルマが2人で使うっスよ」
「だ、だめだ!」
「うわ怖えー。アニキがにらむと怖いからやめてくださいよー」

 

 アルマはすでにシーツの真ん中に座り、いぶかしげな目でこちらを見ている。ラルフは気を落ち着けて、毛布を1枚ラジーに渡した。

 

「とにかくおまえはこれで寝ろ」
「ハーイ」

 

 あっさり言って横になり毛布をかぶった。ラジーの特技は「おやすみー」と言ったあと3秒後に眠れることだ。
 ラルフはなるべく平常心を保ちつつアルマの横に腰をおろした。
 ……確かに狭い。
 これではどうしても、アルマと体が触れてしまう。

 

「昼間みたいなことするのやめてよ」

 

 アルマが警戒心に満ちた目で言う。手首をつかんだ時のことだろう。

 

「あの時はおまえが逃げないようにしただけだ。けっして他意はない」

 

 『けっして』の部分に妙に力が入ってしまった。
 すると意外にもアルマの表情がやわらいだ。

 

「うん……そうね。あなたは何だか、ちょっとちがう。帝国兵はみんな野蛮でケダモノだと思ってた。今でもそうよ。でも」

 

 アルマは口をつぐんだ。

 

「――もう寝るわ。おやすみなさい」

 

 毛布の端をつかみアルマは顔をうずめるようにして寝ころんだ。
 燭台の火を消すのも忘れ、ラルフは遅れた「おやすみ」をかえす。
 やがて規則正しい寝息が聞こえてきた。ラジーが寝返りをうつと、アルマも身じろぎしてこちらに寝顔を向けた。

 

 月光が降りて、長い睫毛が頬にうすく影を落とす。
 蜂蜜色の肌は昼間見た時よりもなめらかで、やわらかく光っていた。
 ラルフはその頬に手を伸ばした。指先で触れると、優しい弾力が返ってきた。これ以上はだめだという思いと、あと少しだけどいう思いが交錯した。そしてそんな自分に当惑した。
 その時だった。アルマのまぶたが細かく震え、苦しげに眉が寄せられた。慌てて手をどけると、アルマは眠ったままつぶやいた。

 

「いかないで、レト兄さま」

 

 透きとおる涙が肌をすべっていった。
 そこにたくさんの哀しみが閉じこめられているように思えた。
 ラルフはその夜、眠れなかった。

 

 

 

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