ネット小説 【LAM】 ≪2≫ACT1-B

表紙
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「嫌な夢を見た?」

 

 神崎(かんざき)リョウは、切れ長の目を試験管からヤマトへ移し、聞き返した。
 収容施設の一角に位置する、研究棟。若干17歳にして医学博士号を持つ彼は、医療研究に携わる特別な立場にある。
 一方ヤマトは研究棟の掃除や荷物を運びなど、雑用全般を担当していた。収容者達は働くことによって、多少の賃金を得ることができる。だがそれも微々たるもので、1週間働いてやっと1杯の酒が買える程度だ。
 だがリョウのような人材は待遇が違う。賃金もだいぶ上乗せされているだろう。

 

「オレに渡したの、不良品だったんじゃねえの? いくらタダで流してくれてるとはいえ、それは反則だろ」

 

 実験机の隣に、修理済みのコピー機を取り付けながらヤマトは悪態をつく

 

。作業は全て、ビデオカメラでAR(アール)達から監視されているので、会話は全て小声だ。
 この研究棟には10人の専門職人が働いている。神埼リョウが担当するのは製薬関係らしいが、詳しいことはわからない。ちなみにリョウには実験室がまるごと一つ与えられている。余程重用されているようだ。ドラッグも作り放題である。

 

「俺が作るものに不良品はありえない」

 

 試験管に変な色の液体を垂らしつつ、リョウは気のない返事を返した。

 

「じゃあ何だったんだよ、あれは」
「具体的にはどういう夢だったんだ?」

 

 逆に聞き返してくるリョウに、ヤマトは言葉を詰まらせた。

 

「……関係ねえだろ、そんな事」
「じゃあこの話はここまでだ。ヤマト、C-2ルームから精製水を100ボトル取ってきてくれ」
「あーもう、分かったよ。めんどくせーなおまえは」

 

 ヤマトはリョウの試験管を引ったくり、彼の目を見据えた。

 

「ユイが殺される夢を見た。ARの倉地ミナト――兄貴の手で」

 

 

 

 

 ヤマトは闇の中にいた。
 何もかもを呑み込む、深淵の底に。

 

(……ユイ?)

 

 見渡しても闇ばかりで何も見えないはずなのに、ヤマトはユイがここにいる事を『知っていた』。
 だから名を呼んだ。
 ユイは気丈だ。暗闇に怯えて助けを求めるような性格ではない。けれど今、ヤマトは呼ばれているような気がした。
 悲痛なほどに、締めつける声で。

 

 風が吹いた。
 左側から。

 

 それはあまりにも冷たく、夜の凍えを凝縮したような風だったから、ヤマトはそちらを見るよりも先に、身を縮めた。
 その、一瞬だった。
 はっきりと、甲高い悲鳴が耳に突き刺さったのは。

 

(ユイ?)

 

 ヤマトは振り返る。
 そして、見る。
 見慣れすぎた、自分と瓜二つの少年。その腕に抱かれた少女。
 両目に光はなく、ダラリとおろした腕に、血が這っていた。
 まるで赤い蛇のように。
 そして彼は手に、やけに刃の長いナイフをつかんでいた。ナイフはユイを深く貫き、背中から先が飛び出していた。

 

(……、ヤマト)

 

 少年の唇が動く。
 いびつに歪んだ、笑みの形。

 

(僕、は、……君達が、)

 

   誰よりも、
   大好きだった。

 

「――ミナト!」

 

 叫んで、腕を伸ばした。
 けれどそれは二人に届かず、ヤマトの夢は断ち切られた。

 

 

 

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