ネット小説 【LAM】 ≪3≫ACT1-C

表紙
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「成程」

 

 興味なさそうに神崎リョウは呟いただけだった。ゆったりと腕を組み、机へ腰を預ける。 

 

「ヤマトはLAMで夢に見るほど、兄貴の事が気になってるんだな」
「……。だから、そうじゃないから、気味悪いんだろうが」

 

 『会いたい人に会える夢』を見られるのが、LAMの効能だ。
 という事は、例え不吉な内容だとしても、ヤマトはミナトに会いたいと願っているのだと解釈できる。

 

「オレは会いたい奴ってのは特にいないから、ランダムに好印象の人間が出てくる程度だよ。……ミナトとはおまえも知ってるように、週1回は会ってるからそんなに気にしてない」
「ヤマトの他に、そういう事例があと2件出たら調べるよ」

 

 リョウは無表情に、試験管をヤマトから取り上げた。

 

「そろそろ昼だ。食堂へ行こう」

 

 

 

 

 

 リョウに相談したところで、あの程度の回答しか得られないと分かっていた。
 あまりの無関心さにむかっ腹は立つが、逆に無関心にされたことでヤマトの心は軽くなった。
 そうだ。その程度の、問題だ。
 けれど。

 

「あ、その夢、わたしも見た」

 

 軽くなった心をあっさりと打ち壊してくれたのが、羽崎ユイのこの発言である。
 質素な夕食を乗せたトレイをテーブルに置きつつ、ヤマトは数秒沈黙した。収容者専用の食堂。すでに食べ始めているユイは、カロリースティックの包装紙を破りつつ、

 

「同じ夢見るなんて面白いね。わたしLAM飲んでないのに。でも後味悪い夢だったな。あ、痛みはなかったよ」
「ユイ、フォーク取ってくれ」

 

 隣で神崎リョウが表情を変えずに言う。
 ヤマトは何とか気を取り直して椅子に座り、ユイに聞いた。

 

「おまえ、自分が殺される夢見たんだな? 昨日、ミナトに殺されたんだな?」
「うん、たぶんミナト。泣いてたから」

 

 ヤマトとミナトは一卵性の双子だ。幼馴染のユイでさえ、見分けるが難しいらしい。性格が全然違うので、表情や仕草ですぐに判別できるようなのだが、黙って立っていればどちらがヤマトか分からないとよく言われたものだ。

 

「でもミナトに殺されるなんて事ありえないから、全然気にしてなかったけど」
「気味わりいな。二人が同時に同じ夢見るなんて」
「内容が内容だしね」

 

 ユイは息をついて、リョウを振り返った。

 

「ねえ、リョウ。偶然の一致だよね、これって」
「夢と現実の周波数は異なっている。夢世界は精神世界だ。精神とはすなわち、電気信号。現実、つまり肉体の周波は空間を伝わりにくいが、精神の周波は非常に伝播しやすい。だからこのような事象が、まれに起こる」

 

 リョウが突然難しいことを喋り出したので、ヤマトとユイは思わず顔を見合わせてしまう。
 構わずリョウは、淡々と続けた。

 

「強い想いを出し合う二人ならば、共振して同じ精神世界を体験する事は珍しい事じゃない。あまり気にするな」
「強い想い、って」

 

 ユイの顔がみるみる赤く染まる。

 

「そんなの違うよ、だってヤマトなんていっつも口うるさいし」
「口うるさいのはおまえだろ。オレじゃねえよ」
「とにかく、だ」

 

 リョウはスープを口へ運びつつ、言った。

 

「ミナトがユイを殺そうと殺すまいと、どちらでも大差ないということだ。

 

しょせんは夢。そこまで気にするようなことじゃない」

 

 ヤマトとユイは沈黙する。だが次の瞬間、空気が破られた。
 食堂内で椅子の音が鳴り響き、続いて何人かの声がこだました。

 

「――おい、どうした?!」
「急患だ、ドクターを呼んでくれ!!」

 

 ヤマトは振り返る。
 そこには椅子から転がり落ち、ビクビクと痙攣を起こす中年の男性がいた。
 男性は取り巻く人垣の中に消えてゆく。やがて扉から、防護スーツに身を包んだ三人が現れた。
 重々しい、グロテクスな装備。アルカディアの感染者にして、世界の支配者――AR(アール)だ。
 人垣は波が引くように道を作った。一人が男性の状況を確認すると、残りの二人が片腕ずつ無造作につかみ、そのままずるずると引きずってゆく。男性の表情は明らかに生気に欠け、口は半開きの状態だった。
 彼らを見送るNAR(ナール)達には、怯えがひしめいている。
 ヤマトは息を吐いた。

 

「また、死人か」
「最近多いね」

 

 ユイもまた、沈痛な面持ちで呟く。

 

「夏は暑いから……。外で働く人達には、相当辛いのかもしれないね」
「自殺も多い。昨日は娼館への配置が決まった女が首を吊った」
「いっそのこと、アルカディアに感染した方が楽なのかもしれないな」

 

 呟いて、ヤマトはカロリースティックをかじった。
 ARは防護スーツを欠かさない。彼らは普段、収容所の外に街を作って生活している。収容所の管理には監視カメラを使った。異常があれば監視者が現れ、速やかに事態を『回収』する。
 彼らが防護スーツを常に纏っているのは、アルカディアを感染させないうにする為だ。不治の病に伏す彼らにとって、NARは欠かせない労働力なのだ。

 

「アルカディアが蔓延する限り、先はないのにな。俺たちも、あいつらも」

 

 馬鹿馬鹿しい。
 何もかもが。

 

 

 

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