ネット小説 【LAM】 ≪11≫ | ACT4-A

表紙
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 落日。
 夕日が青空を侵食する。
 赤く赤く。

 

「……それがどうしたというんだ、ヤマト?」

 

 ガラスの刃に晒されつつもなお、神崎リョウはゆったりと笑む。

 

「オレがおまえを褒めて、どうすると? 自分の作り上げた虚構の夢で、オレを犯人に仕立て上げようとしたいおまえの気持ちは分からないでもない。人間誰しも、大事なものを失う時は、自分の手の届く範囲のものに責任を転嫁させる。それは習性だ、仕方がない」
「オレの夢が虚構じゃなくて、未来を見るものだと言ったのはおまえだったな、リョウ」
「それは前回の夢に関してだ。実際起こったから、そのように分析した。実際に起こってもいないことを、予知夢だと断定する事は愚の骨頂だ」
「オレは、おまえを」

 

 ヤマトは刃を握りなおす。強く握ってしまったため、自分の手が先に、傷つけられてしまった。

 

「おまえを、心底信じていたわけじゃない。けれど収容所の中でユイの次に、良く話した間柄だ。おまえの性格は分かってるつもりだ。だから余計に分からない。――どうしてあんな事をした?」
「オレが何をしたって?」
「『ユイがミナトの手引きで脱走する可能性がある』という情報を、AR(アール)に流しただろう。防護服野郎たちが話してたのを聞いた。言い逃れはさせない」

 

 リョウは沈黙する。
 だがやがて、目を手の平で覆いながら、クツクツと笑い出した。

 

「傑作だなヤマト。そんなカマ掛けにこのオレが引っかかると思うのか?」
「……思わないさ。でももしオレが見たのが予知夢だとしたら、オレに計画が知れた時点でおまえの負けだ。オレはミナトを殺さない、絶対だ」
「けれど倉地ミナトはユイを殺さなくてはならない。これも絶対だな?」

 

 手の平を下ろし、リョウは笑む。
 その、暗い、両眼。

 

「それだけでも、オレの願いは80%成就する。倉地ミナトが絶望の果てに自殺でもしてくれたら99%だ。それで充分だと思わないか? ヤマト」

 

 

 

 

 神崎リョウについて、ヤマトが知っていることは意外に少ない。
 IQ250以上ある天才であること。それゆえに、ARから重宝されていること。中でも薬学に関する知識が深く、LAMなどのドラッグを精製できるほどだということ。
 そして、どんなことに対しても関心がなく、徹底してドライであるという事。
 だから付き合いやすかった。他のNAR(ナール)は被害者意識が強すぎて、狂気から逃れる為にコミュニティを作ろうとする。不幸な傷を舐めあう集団だ。けれど神崎リョウは全く興味を示さない。他人の事情も、自分の事情も。

 

「もし今、オレの願いが99%と叶うんだとしたら、確かにそれで充分かもな」

 

 ヤマトの額から汗が流れる。
 夢がただの夢であったなら、笑ってガラス片を捨てることもできた。けれどリョウは否定しない。
 汗でぬめるガラスを握りしめ、ヤマトはリョウを見据える。

 

「で、ユイを殺してミナトを自殺させて、おまえは一体何をしようとしてるんだ?」
「本当に分からないのか?」

 

 リョウはただ、笑った。
 低く、暗く。赤子に言い聞かすように、言った。

 

「オレはユイを愛してるんだよ、ヤマト」

 

 

 

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