ネット小説 【LAM】 ≪12≫ | ACT4-B

表紙
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(けれどユイには最良の道とも言えるかもしれない)
(売りに出されたユイを、ミナトが買えばいい)

 

 空白になった思考の中で、リョウの言葉が反芻(はんすう)した。
 ……最良の道?
 ユイを、愛しているのに?

 

「招婦にされ病にたおれるより、幼馴染に一息に殺された方が救われるだろう。そしてもう一つ――倉地ミナトへの、弾劾(だんがい)だ」

 

 表情さえなくしたヤマトに、リョウは告げた。
 まるで託宣のように。

 

(倉地ミナトが買えばいい)
(彼はユイに、指一本触れないだろう)

 

 その未来を期待した神崎リョウは、裏切られた。ミナトはユイを買うことができなかった。
 ――だから、なのか?

 

「『恵まれたAR(アール)』の癖に、ユイを護れなかった。臆病で脆弱な倉地ミナトへ、最大の復讐を遂げるためだ」
「……めぐまれた、AR……?」

 

 喉に舌がへばりついて、うまく喋れない。あまりにも酷い、乾きのせいだ。

 

「あいつの、どこが」
「迫害時代には優しい兄と幼馴染に庇われ、立場が逆転すれば庇うことをせず売り払った。自分はつねに安全地帯、売った兄はそれでも自分を大切に思っていて、定期面談には毎回来てくれる。苦痛のないアルカディア、緩慢な死。愛する人間は、自分よりも後に死ぬ。今の時勢、これほどの幸福が他にあるか?」

 

 ミナトはいつも、怯えていた。
 病に怯え、死に怯え、ヤマトとユイに感染してしまうのではないかと怯え。
 そして何よりも、一人になることに、怯え。

 

「狂気に落ちることが珍しくないほど苦しみ悶えている人間達の中で、幸福にまみれながらもそれに気付かず、挙句ユイを救えなかった。これほどに罪深い人間をオレは知らない」

 

 ユイとヤマトを護りたいと、それだけを願い。
 ただそれだけの為に、一人になることを選んだ。
 一人きりで死ぬことを選んだ。

 

「だから、最も重い罰を与えようと思った。ユイを殺し、ヤマトに殺される。どんなに暖かい天国へ召されようと、奴の魂はけして安らぐことはないだろう」

 

 けれども、一番最後に、救えずに。
 どれほどの絶望だろう。ミナト。
 おまえは、馬鹿だ。馬鹿だ、どうしようもなく。
 だから、天才少年神崎リョウには分からない。ミナトの想いは、死んだってわからない。
 ――分かって、たまるか。

 

「オレは、本当は、リョウが何を望んでいるのかなんてわからない」

 

 ユイを愛してると言いながら、結局こだわっているのはミナトではないのか。
 けれどそんなこと、どうでもいい。

 

「でも、ユイもミナトも失いかけている今、オレに怖いものなんて何ひとつない。リョウ。おまえ、最終的にオレがミナトを殺すシナリオを考えていたんだろ? じゃあ、『どうやって』オレにミナトを殺させるんだ」
「質問の意味がよく分からないな」
「捕まってるミナトを、収容所に閉じ込められているオレが、どこで、どうやって、殺せるのかってことだ。さっきも言った通り、もうオレに怖いものなんてない。捕まろうが、死刑になろうが、今この瞬間も、おまえを刺せる」

 

 『ヤマトとミナトが接触できる場所』があるのだ。どこかに。それはもしかしたら、ミナト達が監禁されている場所かもしれない。だからもしかしたらユイとミナト両方に会えるかもしれない。
 救えるかもしれない。
 リョウは冷静に、口を開く。

 

「監視カメラが見ているぞ」
「関係ない。ARが扉を開いてここへ来るより、オレの方が早い」
「呆れたな」

 

 リョウは浅く溜息をつく。そうして自嘲めいた表情を浮かべた。

 

「いいだろう、教えてやる。その前にさっさとガラスを下げてくれ。おまえに殺されるのだけはごめんだ」

 

 

 

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