ネット小説 【LAM】 ≪16≫ | ACT5-A

表紙
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 水路に戻ると、リョウが待っていた。ヤマトは大きく息をつく。

 

「とりあえず、第一段階は成功ってことか」
「意外に早かったな」
「リョウ君が協力してくれたの?」

 

 ユイがさも意外と言いたげに、目を丸くした。ミナトはリョウと面識がないので、さらに困惑している。

 

「いや。ヤマトに協力しなければ殺すと脅されたから、助けただけだ」
「そうなんだ。ありがとね」

 

 ユイは苦笑した。ミナトがおずおずと声を掛ける。

 

「ヤマト、彼は?」
「リョウ。NAR(ナール)だ。収容所が同じだったんだ」

 

 ヤマトはそっけなく答える。これ以上、説明のしようがなかった。ミナトは脱力したように肩の力を抜き、ぽつりと声をこぼした。

 

「……よかった。本当に」
「あのな。弟や女の前で簡単に泣くなよ、おまえ」
「ごめん。でも感謝してる。本当に。ありがとう、リョウさん、ヤマト。ごめん。ヤマトには最初から最後まで、迷惑掛けっぱなしで、本当にごめん」
「自覚があるなら今度から気を付けろ」

 

 礼や謝罪が欲しいわけではないのだ。冷たく言い、ヤマトはリョウを振り返った。

 

「リョウ、もう少し付き合ってくれ。行きたい場所があるんだ」
「大体予測はつくがな」
「『街』へ行く。もうオレたちにはそこしか、生きる場所がない」
「街……?」

 

 ユイとミナトが同時に首をかしげた。リョウは肩をすくめる。

 

「おまえに言われたことは全部こなしたはずだ。これ以上要求するのか?」
「頼む」
「嫌だと言ったら?」

 

 ヤマトはリョウを睨みつけた。

 

「言わせると思うか? こっちは三人だ、おまえに拒否権はねえよ」
「また暴力か。サル並だな、おまえは」
「何?」
「ここでオレを殺したら、水路で野たれ死にだ。おまえ達の方がオレに頼らざるを得ない状況だという事がいまだに分かっていないところが、サル並だ
と言ってるんだ」
「よくもぬけぬけと! 元はと言えばおまえが……!」

 

 そこまで言いかけて、ヤマトはグっとこらえた。ミナトとユイの前で全てをばらすのは、まずい。まんまとリョウの計画にハマリ、ユイを危険に晒したのだと、ミナトが自責の念に潰される。
 リョウは口端に笑みを刻む。

 

「オレが、どうした? おまえに刃物で脅されてここまで連れて来てやったんだ。被害者のオレを、おまえが責めるいわれがどこにある?」
「けどここでAR(アール)に捕まればおまえも同罪だ。死刑はまぬがれないのなら、リョウだって『街』へ出るしかねえだろ」
「悪いがオレはおまえと違って、ARからいろいろと便宜を図ってもらっている。オレの配属先をおまえも知っているだろう。製薬部門だ。ワクチン開発さ。ARが喉から手が出るほど欲しいモノだ。あいつらはオレを手放すことはできない」
「おまえって奴は、本当にイヤなやつだな……!」
「そうすればおまえ達は、予定通りお互いを処刑しあうのだろうな。倉地ミナトがユイを、そして倉地ミナトはヤマト。おまえがやるのか?」

 

 ヤマトにだけ聞こえるように、リョウは耳元へ唇を寄せた。

 

「予定通りだ。……上出来だよ、ヤマト」

 

 瞬間、ヤマトは自分自身のコントロールを完全に失っていた。

 

「ヤマトッ!」

 

 強い力で背後からはがいじめにされ、ヤマトは我に返った。すぐ足元で、倒れたリョウが上半身を起こしていた。唇が切れて、血が流れていた。それを腕で拭っていた。
 ヤマトは見た。リョウの口が、まだ笑みを浮かべているのを。

 

「だからオレをここまで連れてきたのか、ゲス野郎!」
「ヤマト、だめだ。やめろ!」
「はなせ! こいつはおまえを……!」

 

 振り払おうとした腕が、毒々しい紫色だった。ヤマトは息を止める。体から力が抜けた。

 

「……リョウさん」

 

 自分とよく似た声が、水路に反響する。声質はまったく同じだが、響きは自分と違って、優しい。いつもそうだ。ずっと昔から。

 

「ケガをさせてしまって、すみません。ヤマトは一生懸命なだけなんです。自分のためだけなら、ここまでしない。すべてオレの責任です。オレがここでオトリになる。だからその隙に、リョウさん達は逃げてください。ヤマトの言う、『街』に連れて行ってやってください。お願いします」

 

 ひたむきな声で頭を下げる。ヤマトを抑えていた腕は、すでに離れていた。

 

(こんな奴に頭を下げなくていい)

 

 ミナトは確かに短慮だった。いやもしかしたら、リョウがARに耳打ちしなければ、脱出は成功していたかもしれない。
 リョウは、無表情にミナトを見下ろしながら言った。

 

「初対面で言うのも申し訳ないが、断ります。オレはくだらない自己犠牲精神が一番嫌いだ」
「リョウ……!」

 

 頭を下げたままのミナトが凍りつき、ヤマトが再び声を荒げたその時、怒鳴り声とサーチライトが、穴の奥から閃いた。
 抑え込んでいたセキュリティシステムが作動しはじめ、守衛が無人の牢に気付いたのだ。ヤマトは舌打ちする。身を引くユイを背中に庇い、ミナトがヤマトに訴えた。

 

「逃げよう、ヤマト!」
「――リョウ」

 

 ヤマトはリョウを見る。ポケットの中からガラス片をつかみ、持ち上げた。リョウはわずかに、口端を引き上げる。
 軽蔑されようが、知ったことか。もう時間がないのだ。

 

「怪我したくなかったら、ARを撒けるように、水路を案内してくれ」
「『街』へは連れて行かないぞ?」
「それでもいい。とにかくここを切り抜けるんだ」

 

 短い沈黙の末、リョウはPCをポケットにしまって走り出した。ヤマトが追い、ユイとミナトが後ろに続いた。
 背中を、サーチライトの光に貫かれた。同時に足元のコンクリートが破砕される。レーザー銃だ。
 銃を相手にどこまで逃げ続けられるか分からなかったが、足を止めるわけにはいかなかった。

 

 

 

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