ネット小説 【LAM】 ≪17≫ | ACT5-B

表紙
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 水路は複雑すぎた。右、左、直進、左、左。方向感覚はとうになくした。もう一度牢屋に戻れといわれてもとうてい無理だ。
 走って、走って、走りぬいた。時間感覚すらなくなている。あるのは追われる焦燥感だけだった。

 

「ミナト!」

 

 後ろでユイが、悲痛な声を上げた。ヤマトはとっさに振り返る。

 

「大丈夫だよ、まだ走れる」

 

 しっかりとした声でミナトは言う。ヤマトは一瞬眉を寄せたが、反応はそれだけに留めた。
 恐らく、レーザー銃がミナトのどこかをかすめたのだろう。AR(アール)である彼には痛覚がない。だが傷は傷だ。

 

「リョウ、全然ARを撒けてねえ、このまんまじゃ全員撃たれるぞ」
「先に行け。直進だ。3ブロック目で止まっていろ」

 

 突然リョウが立ち止まる。何か策があるのだろうか。チラリとリョウを疑いかけるが、問いただしている時間などなかった。
 3秒後、重い破裂音が空気を震わせた。振り返ると、リョウが立っていたはずの場所にもうもうと煙が立っている。目くらましの煙幕だ。小型の爆発物でも使ったのだろうか。もうヤマトは、リョウが何を開発しようが驚かない事にした。驚くだけ損だ。

 

「リョウくんて、実は馬鹿なのかも。天才すぎて」

 

 ユイが肩で息をしながらコメントした。ミナトは茫然とした表情で、

 

「あのリョウさんて人……、すごいね。ヤマト、あんな人をどうやって脅せたの?」
「いろいろ事情があンだよ」

 

 やがて煙の中からリョウが現れた。あごで先を示す。

 

「今のうちに奴らを撒く。あの阿呆どもは応援を頼まなかった。敵は2人しかいない。簡単だ。走れ」

 

 

 

 

 

 完全に守衛を撒いたのは、それから20分後だった。走りどおしだったので、さすがのユイも座りこんでいる。通路の角。前方向は三叉路だ。もし守衛が追ってきても、再び撒きやすい場所だった。

 

「大丈夫、ユイ?」
「あたしは何とか……。それよりもミナト、撃たれたでしょ? 止血だけでもしておかないと」
「かすり傷だから大したことないよ」

 

 かまわず、ユイはミナトの腕にひもを巻きはじめた。自分のそでを裂いて、即席で作ったひもだ。
 敵は銃を持っている。今回はうまく撒けたとしても、もし応援を呼ばれたら捕まるのは時間の問題だ。
 ヤマトはガラス片を握りしめる。汗がにじんでぬめるから、強く握らなければいけない。
 リョウが何を考えているのかヤマトには分からない。
 『街』の場所を教えたくないと言う。けれど『街』の存在を教えたのはリョウだ。そして爆煙を使ってまでヤマト達を逃がした。道が分かるのはリョウだけなのだ、ヤマトたちに気づかれず迂回して、『わざと守衛に発見させる』こともできたはずだ。
 リョウの本心が分からない。全然読めない。

 

「どうした。ヤマト」

 

 ヤマトをなだめるような、優しげなリョウが言う。

 

「おまえがしたいことは、オレには手に取るように分かる。その刃でまた、脅す気だろう? でもおまえにはオレの考えが読めない。だから3度目の脅しがきくかどうか分からない。そうだろう、ヤマト?」
「……おまえは、頭がおかしい」

 

 ヤマトは声を絞りだす。

 

「おまえは狂ってる。だからオレには理解できない」
「馬鹿だな。ヤマト」

 

 リョウはのどの奥で笑った。

 

「オレをマッドサイエンティストか何かと勘違いしていないか? オレはヤマトが思っているよりも天才で、そして、残念な事にどこまでも『人間でしかない』」

 

 目を細めて、リョウは微笑んだ。ヤマトは眉を寄せる。……人間?
 ハッ、とヤマトは目をみはる。
 ――そうか、そういうことか。
 だから、リョウは。
 ヤマトはとっさに、後ろを振り返った。だが、声を掛ける直前に、ユイがすでに口を開いていた。

 

 

 

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