ネット小説 【LAM】 ≪18≫ | ACT5-C

表紙
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「ねえ。リョウくん」

 

 リョウは笑みの表情を崩さないまま、ユイに視線を移す。
 ユイは唇を引き結んで、前へ進み出た。ヤマトを通り越して、リョウの目の前で立ち止まる。思わず動きかけたミナトを、ヤマトが制した。
 沈黙と、――そして。
 パン! と弾く、乾いた音。

 

「バカ」

 

 ユイがリョウの頬を平手で叩いたのだ、と気付くのに2秒かかった。
 彼女はヤマト達に背中を向けているので、表情は見えない。けれどピンと伸びた背中から、ユイの感情が伝わってきた。
 ユイは怒っているのだ。爆発するような怒りではない、青い炎が燃えるような、静かな怒りだ。

 

「リョウくんの、最大の間違いを教えてあげる」

 

 リョウはユイの怒りすら、シナリオの範囲のようだった。表情に揺らぎはなく、微笑んでさえいる。打たれた頬をものともせず、悠然と彼女を見下ろしているのだ。

 

「みんなに相談しなかったこと。ぜんぶ自分だけで考えて、あたしたちを動かそうとしたこと。確かに成功したかもしれない。でも、間違ってる」

 

 ミナトは茫然と、ユイの背中を見つめている。何がなんだか分かっていない表情だ。だがヤマトが3秒後に浮かべた表情は、苦笑にも似た笑みだった。
 ……結局は、そういうことなのだ。
 リョウはユイの望みを知っていた。ユイはきっと、ヤマトとミナト3人で脱出したかったのだろう。
 でも、ヤマトは動かないだろうということも知っていたのだ。ミナトに対する感情が――複雑すぎて。
 だから一計を講じた。リョウ自身が恨まれることになってもいい。それでもユイの希望を叶えたいと思って。
 なんて不器用で、ややこしいヤツなのだ。

 

「夜中にミナトが現れて、あたしたちはまず、ヤマトを誘いに行こうと思った。でもすぐに捕まった。AR(アール)が言ったの。カンザキの言う通りだったって。その時にはすぐ分からなかったけれど、ヤマトが助けに来てくれてちょっとずつ気づいたの」
「そうか。……わかった」

 

 リョウはゆっくりと、笑みを広げる。 

 

「わかった。『街』へ行こう」
「ありがとう」

 

 ユイは表情をゆるめたようだった。
 そして、少しだけ、うつむいた。

 

「……ごめんね」
「謝ることはない。オレは嗜虐趣味だからな」

 

 リョウはユイから、ヤマトへ視線を向けた。

 

「ユイがミナトと逃げ出そうとしたから、嫉妬のあまり少々悪趣味な計画を立ててしまったんだ」
「もうおまえそれ以上喋るな。ややこしくなる」

 

 ヤマトは半ば呆れて言う。ミナトはうろたえているようだ。

 

「え、えーと、オレ、話が見えないんだけどヤマト、説明してもらえるかな」
「今そんな時間ねえよ」
「じゃあ、『街』に出たらでいいから」

 

 ミナトの言葉に、ヤマトは息が止まってしまった。
 ……『街』に、出たら。
 無事、生きてここから出られたら。
 再びまた、誰も欠けることなく暮せるように、なったら。
 ヤマトは笑みを刻む。背後から、いくつもの足音が聞こえる。怒声。ガチャガチャと、武器の音。ARだ。

 

「『街』へ行っても、説明する時間なんて永遠にねえよ」

 

 生きるだけだ。
 説明も理由も意義も善悪でさえ不要だ。
 ミナトは一瞬面食らったが、ヤマトの心を感じ取って、やがてゆっくりと微笑んだ。

 

「うん。……わかった」
「感染させたらどうしようとか、くだらねえこと言い出すんじゃねえぞ」
「う……。そ、それは分かんないかも」
「それ言ったらタコ殴りな」
「ミナトがいなかったら、あたしとヤマト、ずーっと泣いて、脱水症状になって死んじゃうから」
「う、うーん」
「誰が泣くかよ!」
「迷ってるなら、とりあえず一緒にいようよ」

 

 ユイが曇りなく、笑う。

 

「一緒にいようよ。それで、どうすればミナトが安心できるか、みんなで考えようよ。前みたいに、ミナトひとりで悩むんじゃなくて」
「もう時間がないぞ、ヤマト、ユイ、ミナト」

 

 リョウが口を挟む。ヤマトは頷いて、短く言った。

 

「行くぞ」

 

 ユイがためらいなく手を伸ばし、紫色の腕を引く。とっさに後ずさるミナトを、さらに強く引いて、強いまなざしで笑んだ。

 

「でも、いくら考えても、あたしとヤマトの答えは決まってるけどね」

 

 

 

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