ネット小説 【LAM】 EPILOGE

表紙
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 LAM。
 Life And Mind.
 生きることに、心は必要不可欠だからこそ、神崎リョウは作り上げたのだと言う。

 

「人間にとって、『心』は会いたい人間のことだ」

 

 地平線を隠すコンクリートビルの廃墟郡。
 赤い夕日が沈もうとしている。人間が笑おうが嘆こうが、助け合おうが殺し合おうが、おかまいなしに日は巡る。

 

「だからおまえはユイから離れないのかよ?」

 

 『街』へ出てから結局、ずっとヤマトたちと暮しているリョウをヤマトはからかう。
 もちろんリョウは、意に介さない。

 

「おまえ達こそ、オレの作るLAMがなかったら今ごろ野垂れ死にだ」
「否定できないところが辛いな」

 

 LAMは売れる。『街』でもLAMの需要は高く、食うに困らない。隠れ住むNAR(ナール)たちも夢を切望しているのだ。

 

「今夜にでも、このエリアでNAR狩りが始まるぞ。早々に逃げた方がいい」
「ミナトが動けないんだ。あんまり長距離を移動したくない。地下水路に逃げる」
「分かった。退路を考えるからおまえは先に戻ってろ」

 

 ヤマトは頷き、半壊したコンクリート壁から立ち上がる。
 リョウはポータブルPCを取り出した。保存してあるマップから退路を割り出すのだ。
 ヤマトたちは主に、地下で暮していた。瓦解した大型デパートのなれの果てだ。水路はさらに地下にあり、ヤマトやユイも、半径10キロ範囲なら道が分かるようになった。
 けれど、ミナトは違った。皮膚の紫化が進んでいるため、他のNAR見つかるわけにはいかない。そのため、一度も外出していないのだ。
 体調が極端に悪くなったのは『街』に出て1週間後だった。1日目は顔色が真っ青で、2日目はめまいが酷く、立っているのもやっとだった。3日目は起き上がれなくなり、4日目には高熱が出て言葉すらうまく操れなくなった。顔面変色が始まったのは5日目の夜からだ。
 そしてその症状は今もずっと、続いている。

 

「ミナト」

 

 地下の狭い1室である。マットレスをしき、毛布を掛けていた。ミナトは少しだけ首を動かしヤマトを見た。
 顔は完全に紫色に染まっている。神経が冒されて、指一本動かすことすら困難だった。
 ユイは闇市に出かけたのだろう。旧メトロで行っている物々交換会だ。

 

「気分はどうだ?」

 

 問い掛けに、ミナトは笑みのような表情を浮かべた。かたわらに座り、ヤマトも笑みを返す。
 LAMは需要が高い。きっとユイは両手いっぱいの食料を持って帰ってくるだろう。『心』を与える薬。LAMを求める人間は、心が足りないのだ。欠けているのだ。

 

「なあ、ミナト。オレは、LAMはおまえに一番必要なクスリだって、思ってたんだぜ」

 

 自分の言葉がどれだけ届いているのか、ヤマトには分からない。ミナトの聴覚は完全に死んでいるかもしれない。けれど相変わらずミナトは微笑んでヤマトを見ているから、安心して話し続けることができる。

 

「でも、今はぜんぜん思わないんだ。だっておまえ、今この上なく幸せなんだろ?」

 

 ユイがもうすぐ、帰ってくる。
 ただいまと、元気に、明るい笑顔を見せる。退路を決めたリョウが戻ってきて、相変わらず難しい話運びで説明する。ユイが食事を皿に盛る。みんなでミナトを囲んで、食事する。ミナトの胃はすでに、食べ物を受けつけないけれど、賑やかでささやかな、晩餐のひと時が始まるのだ。
 毎日毎日、耐えることなく続いてゆく。
 ミナトがいっそう、笑みを深くしたように見えた。
 幸せだよヤマト。
 そう、聞こえた気がした。
 ミナトがゆっくりと目を閉じる。ヤマトはじっと、それを見ている。
 紫色の皮膚。もうヤマトとミナトを見間違える人間はどこにもいないだろう。

 

「おやすみ、ミナト。ユイが戻ってきたら起こしてやるよ」

 

 ……大丈夫だ。
 絶対にもう、一人にはしないから。

 

 

 

 

 日は沈む。
 再び昇る為に。
 人は眠る。
 再び走る為に。
 全力で、生きる為に。

 

 

 

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