ネット小説 【魔女のイケニエ。】 (1)

ネット小説【魔女のイケニエ。】 【2】

 

 深い森の中央で、カナンは一人、気合いを入れる。

 

「待ってろよ、極悪魔女ババア」

 

 端正な容貌に、剣呑な光が宿る。「黙っていれば美青年なのに」というセリフは、村の誰もが知る、カナンのアイデンティティだ。
 カナンは今日、魔女の生贄になる。そして、彼の座右の銘を、滞りなく実行するのだ。

 

 いわく――『やられる前に、殺れ』。

 

 

 

 

 

 

 ……の、はずだったのだが。

 

「ああ、目が覚めたか」

 

 聞きなれない少女の声がする。カナンは痛むこめかみを押さえつつ、眉をひそめた。
 ここはどこだ?

 

「あたたかいスープでも飲むか? 今、ちょうど出来上がったところなんだ。起きられるか?」

 

 ふわりと、食欲をそそる香りが鼻をくすぐった。そういえば、腹が減っている。カナンは誘われるように身を起こした。
 すると目の前に、ほかほかのスープが差し出された。
 差出人は――黒髪を肩までまっすぐに伸ばした、少女。

 

「ゆっくりと飲むんだぞ。おまえは丸2日、眠っていたんだから」
「フツカ?」

 

 思わず出た声は、ガラガラだった。

 

「2日も眠っていたのか? どこで?」
「森の中で」

 

 少女は端的に答える。深い緑の瞳が、森の木々を思い出させた。
 白い肌、黒い髪、緑の目。人形のように、整った美少女だ。
 そこでふと、カナンは思い当たった。

 

「ちょっと待てよ。黒髪に、緑の目……?」

 

 カナンが眉を寄せる。少女はハッとした表情になり、悲しげにうつむいた。

 

「まさか、おまえ!」

 

 カナンは愕然として、ベッドの上で後ずさった。

 

「おまえが、『森の魔女』か?!」

 

 

 

 

 

 

 時は3日前に遡る。
 カナンの住むターニアの村は、絵に描いたような牧歌的な村だった。
 たいていの村人は、ここで産まれ、ここで働き、家族を築き、この地で一生を終える。のんびりした老人と、働き者の大人と、元気な子供が走り回る、平和な場所だ。
 だが5年ほど前から、村人を悩ませる変事が起こっていた。
 花々が咲き乱れる春。1年でもっとも和やかな季節に、毎年、一通の手紙が村長宅に届けられるようになった。

 

『村一番の美しい若者を、生贄に差し出せ』

 

 魔女はすぐ近くの深い森に住み着いているらしい。1年目、無視をしたら、その年は大干ばつで農作物は全滅。家畜は、原因不明の病で7割が死んでしまった。泣く泣く生贄を差し出したら、異常気象は落ち着き、家畜は快癒した。
 と、いうことで、生贄を差し出すこと5年。男女問わず、粛々と、美しい若者が送りだされていった。
 そして今年はついに、カナンに白羽の矢が立った。『黙っていれば村一番の美青年』なのだから当然の成り行きである。

 

「何が生贄だ、ふざけんな!」

 

 カナンは憤った。この変事については、5年前、当時13歳だったころからずっと、憤っている。泣く泣く話をしにきた村長の肩を、頼もしく叩いた。

 

「安心しろ、じいちゃん。オレが終わりにしてやる。魔女のババアを、ブッ殺してやる!」

 

 そして、魔女を殺せると言われている銀のナイフを引っつかみ、意気揚々と森を目指したのである。

 

 

 

 

ネット小説【魔女のイケニエ。】 【2】

 

 

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