ネット小説 【魔女のイケニエ。】 (3)

【2】 ネット小説【魔女のイケニエ。】 【4】

 

 食事の後、ロゼッタは「探し物をしてくる」と言って、地下室に行ってしまった。
 セトの話をしてからずっと、ロゼッタはカナンを見ることなく、うつむき加減のまま黙っていた。
 カナンはベッドの上で仰向けになった。懐から銀のナイフを取り出す。なめらかに光る刃。
 ロゼッタの態度が、どうにも納得いかない。
 そもそも、「生贄なんて知らない」という主張がおかしい。森の魔女は彼女一人だ。生贄はみな、森へ消えていった。犯人は彼女しかいない。
 例えば他に犯人がいたとしよう。だが定期的に村人を攫って、何の利があるのか。若い娘であれば利用価値はあるだろうが、男女問わずである。
 もしくは、ただの愉快犯? ……もしくは。

 

「ロゼに恨みを持つ人間――」

 

 カナンはつぶやいた。
 ロゼッタのせいだと罪を被せることによって、喜びを得るたぐいの人間だ。
 カナンはベッドから起き上がる。やはりもう一度、ロゼッタに話を聞くしかない。

 

 

 

 

 地下室への扉は、錠前が掛けられていた。
 なぜ鍵を? 眉をひそめつつ、ナイフの柄で錠前を叩き壊して中に入った。薄暗い階段を下っていく。
 奥の小部屋から明りが洩れていた。

 

「……――が、やったのか?」

 

 ロゼッタの声が聞こえる。カナンは廊下の壁に背をつけて、息をひそめる。

 

「どうしてそんなことを。わたしは望んでいない」

 

 声を押し殺しているが、苛立ちは抑えられていない。誰と話をしているんだ? カナンは聞き耳を立てる。
 すると、しなやかな男の声が響いた。

 

「何故だ? 私を呼び出したのはおまえだろう、ロゼッタ。その時からこのような事態は予測できていたはずだ」
「違う! わたしはおまえのような悪魔を召喚したのではない。わたしはただ――」

 

 そこで、ロゼッタは声を詰まらせた。男は喉の奥で笑った。

 

「ただ、『友達』が欲しかった、だけか。哀れな女だ。人の繋がりを、魔術で得ようとは」
「……わたしは」

 

 沈黙が落ちた。
 やがて振り切るようなロゼッタの声が、届く。

 

「そんなことはもういい。おまえが攫った人間たちはどこにいる。今すぐ村へ返すんだ」
「そんなもの、もういるわけないだろう?」

 

 馬鹿にしたように、男が言った。

 

「生贄の意味を知っているか? まだ命があるとでも? 魔女のくせに、相変わらず甘い女だなおまえは」

 

 ロゼッタは絶句したようだった。我慢できず、カナンは小部屋へ飛び込んだ。拳はすでに固く握っていた。

 

「ふざけんな!」

 

 一声吼えて、拳を繰り出す。目前には長身の青年がいた。
 だがどういうわけか、拳が青年に届く前に、見えない力でカナンは後方に弾き飛ばされた。勢いよく背中を壁に打ち付けて、目の前に火花が散る。 

 

「カナン!」

 

 ロゼッタが駆け寄って、抱き起してくれた。今にも泣き出しそうな、緑の瞳。

 

「魔界の急用で、少しここを留守にしたらコレか」

 

 青年は溜め息をついた。

 

「油断もスキもないな。簡単にウジがわく」

 

 カナンは奥歯を噛みしめながら、青年を見上げた。
 漆黒の髪に、漆黒の双眸。長身を、これまた真っ黒な装束で覆っている。それに反して肌は抜けるように白く、唇は血色が欠けて紫に近い。
 見つめていると背筋が寒くなるような美貌だった。この世のものとは思えない、押しつぶされるような存在感だ。
 そして何より異常な特徴は、頭から2本の角が生えているところだ。羊のような孤を描く角である。

 

(悪魔――)

 

 カナンはロゼッタの言葉を思いだした。

 

「ロレンス」

 

 懇願するように、ロゼッタは言った。

 

「もうやめて。カナンだけは返してやってほしい。カナンはお兄さんを生贄にされてるんだ」

 

 だが悪魔――ロレンスの表情から、不快の色が消えることはなかった。

 

「ウジに価値はない。だが外見が美しい者は観賞物としての価値はある。今までの生贄のようにな。……この男はうるさいが、まあまあ美しい」

 

 ロレンスはゆっくりと、細い指先を持ち上げた。黒い光の粒子が、音もなく集まってくる。ロゼッタは悲痛に叫んだ。

 

「ロレンス、やめて! 連れていくなら、わたしを」
「おまえのような半端者、いらぬわ」

 

 どこまでも冷たく、ロレンスは吐き捨てる。そうして冷たい双眸でカナンを見た。

 

「ウジは死ね」

 

 黒い粒子が鋭い刃となり、疾走した。一瞬で胸を貫かれ、それからあとは、何もかもが闇に消えた。

 

 

 

 

【2】 ネット小説【魔女のイケニエ。】 【4】

 

 

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