ネット小説 【未来感カルテット】 ≪1≫花純(1)

表紙
[1] 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 fin.

 

 現在、朝の9時15分。完全に遅刻だ。
 それでも、木崎花純(きざき かすみ)はのんびりと校門をくぐった。校舎は今日初めて見る。どっしりとして、古びている。
 空を見上げた。
 5月。
 桜はすでに散っている。

 

「ええと……職員室は、こっちかな」
「――うわっ」

 

 キョロキョロしていたら、誰かとぶつかってしりもちをついた。制服の相手が、慌てたように声を上げる。

 

「ごめん!」

 

 見上げたら、太陽のまぶしさに目がくらんだ。
 てのひらをかざすと、その手を強く引き上げられた。

 

「ごめんな。大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫。あたしこそごめんね」

 

 花純の言葉に、彼はホっとしたように笑った。

 

「良かった! あんたも遅刻か? オレたちと一緒だな」
「そう、寝坊した上に、道に迷ったの」
「迷う?」
「あたし転校してきたの。今日が初日。だから、職員室がどこにあるのか教えてくれたら嬉しいんだけど」
「そっか、うん。職員室はこっち―ー」
「あ、テントウ虫」

 

 指を伸ばして、彼の肩に乗った小さな丸をつまんだ。

 

「この子も一緒に遅刻だね」

 

 ニコリと笑うと、彼の頬が赤くなった。

 

「も、もちろん案内するよ。職員室はええと、下駄箱から右……いや、左だったかな」
「右だろ」

 

 もう一人の声が降ってきた。落ち着いた声音だ。

 

「おはよう。君は何年生?」
「えっと、1年生です」

 

 背が高い。こちらも制服姿だ。何となく、年上のような気がして敬語になる。

 

「それならこいつと同じ学年だね。僕は二条蓮(にじょう れん)。こっちは弟の理央(りお)」
「木崎花純です」

 

 花純は律儀にお辞儀をした。二条蓮なる人物は、『そういう雰囲気』を持っている。
 落ち着いているのに、キラキラしている。

 

「職員室はこっちだよ。ほら理央、見惚れてないで行くぞ」
「れ、蓮兄。オレは別に見惚れてなんて」

 

 弟はなぜか動揺しているようだ。首を傾げつつ、花純は兄弟の後を追った。

 

 

 

 

 無事職員室に辿りついた花純は、副担任に遅刻の小言をもらいつつ、教室に案内された。二条兄弟はすでに、自身の教室へ向かっている。
 若い女性の副担任は、メガネをかけている。神経質に指先で位置を直し、扉を引き開ける。

 

「おお、やっと来たか。HRにギリギリ間に合ったな」

 

 担任はカバみたいだった。しかも名前は河場(かわば)らしい。彼のあだ名が想像できるというものだ。
 カバ先生は花純を教壇に立たせて、黒板に名前をでかでかと書きつけた。

 

「季節外れだが転入生だ。みんな、仲良くするように」
「よろしくお願いします」

 

 花純が頭を下げると、パラパラと拍手が起こった。その中に、見知った顔がある。彼は驚いているようだ。
 花純は嬉しくなって、小さく手を振った。二条理央も振り返すと、先生が気づいた。

 

「なんだ、もう知り合いになったのか。でも残念だったな二条。木崎の席は委員長の隣だ。浮島(うきしま)」
「はい、ここです」

 

 ピシっとした声だ。さほど背の高くない女子生徒が、こちらを見て微笑んだ。花純は早速、空いている彼女の隣に座った。

 

「クラス委員長の浮島凛(りん)です。よろしくね木崎さん」
「こちらこそよろしくね。花純でいいよ」
「じゃあわたしは凛で」

 

 まっすぐのボブカットが清潔な印象だ。クラス委員長というし、きっとしっかりしてるんだろうなと花純は思う。

 

「理央と知り合いなの?」
「うん、校門で会ったの。お互い遅刻しちゃって」
「そう。目立つでしょ、彼。イケメンだから」
「えっ、そうかな。そうかもしれない」

 

 花純が首を傾げると、凛はクスリと笑った。

 

「好みじゃないの? 理央はさっきから顔赤くしててちょっと笑えるよ。まあ、理央だけじゃなくてクラスのほとんどの男子がソワソワしてるけど。花純、お人形さんみたいだから」
「凛は二条くんと仲いいの?」
「幼馴染なの。家が近くて」

 

 そこでHR終了のチャイムが鳴った。凛は慌てて号令をかけた。

 

 

 

表紙
[1] 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 fin.

 

 このページにしおりを挟む
 トップページへ戻る