ネット小説 【未来感カルテット】 ≪2≫花純(2)

表紙
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 昼休みに、凛が校内を案内してくれた。
 県立野木(のぎ)高校は創立70年ということで、あちこち改修がなされている。新しいところと古いところがつぎはぎになっている。
 食堂や特別教室などを一通り回った後、渡り廊下の先に古びた建物があることに気づいた。

 

「あそこは何?」
「ああ、あれは第一図書室よ。去年第二図書室が新しく作られてから、利用する生徒がすごく減ったの。まあ古いし汚いし、別館でちょっと遠いから仕方ないけどね。まだ時間あるけど、行ってみる?」
「でも、誰かいるみたい」

 

 渡り廊下からは、第一図書室の窓が見える。そこに小さく人影がある。男子生徒のようだ。
 机に向かって、熱心に本を読んでいる。

 

「あれは日野くんね。日野成(ひのなる)君。クラスメイトよ。気づかなかった?」
「うん」

 

 髪は明るく染められている。
 でも、古びた図書室で一人本を読む姿が、どこか寂しげだった。

 

「凛」

 

 ふいに声が掛けられた。図書室の反対方向から、一人の男子生徒が歩いてくる。見覚えがあった。
 凜が慌てて頭を下げる。

 

「蓮先輩! こんにちは」
「生徒会室の中じゃないし、いつも通り蓮でいいよ。幼馴染なんだから。凛は真面目だな」

 

 二条蓮は苦笑する。凛の頬がほんのり染まったので、おや、と花純は思う。

 

「ああ、君は木崎さん。今朝はどうも。弟がごめんね」
「こちらこそ、案内してもらってありがとうございました」

 

 花純はまたもやお辞儀する。相変わらずキラキラなお兄さんだ。

 

「それじゃあね、凛。あ、部活オリエンテーションの予算表、次の生徒会までに頼んだよ」
「はい、せんぱ……じゃなくて、蓮くん」
「よくできました」

 

 爽やかに笑って、二条蓮は通り過ぎていった。凜はぽーっと後姿を見送っている。いつまでもそうしているので、花純はてのひらを凜の目の前でヒラヒラさせた。

 

「あっ、ごめん」
「凛って案外分かりやすいんだね」
「えっ、何が? そんなことより花純、蓮くんとも知り合いなんだね。蓮くんは理央のお兄ちゃんなんだよ」
「うん、知ってる。朝校門で2人に会ったの」
「そうなんだ。学校一目立つ兄弟だよ。幼馴染ってだけで、わたしまで目立っちゃって、居づらいくらい」

 

 凛も充分、目立つ気がする。サラサラの髪と、大きくて意志の強い瞳を見ながらそう思った。

 

「あそこは三兄弟でね。一番上の耕(こう)くんが、まだ23歳なんだけど、ベンチャー企業っていうの? そういうのを立ち上げて、あの2人が手伝ってるんだって」
「えっすごい」
「耕くんもここの卒業生なの。田舎で古い学校だけど、一応進学校だから、みんな大学に行くのね。そういう中で耕くんが『大学に行かずに起業する』って言い出した時には、先生もめちゃくちゃびっくりしたみたいだよ。蓮くんは3年生なんだけど、耕くんの仕事を一緒にするから、やっぱり大学はいかないみたい。理央は――」

 

 凛は表情を曇らせる。

 

「まあ、いろいろあるみたい。優秀なお兄ちゃんを持つと、本人は大変だよね」
「そっかぁ。あたし一人っ子だから寂しい思いしたけど、気楽で良かったのかも」

 

 凛の大きな瞳が丸くなった。

 

「花純もなんだ。わたしも同じ。一人っ子だよ」
「そうなの? 意外。凛は弟か妹がいそう」
「よく言われる。兄弟がいると賑やかでいいなって思うよ。小さいころはあの三兄弟と、それこそ本当の兄弟みたいに遊んでたけど、成長するにつれて何となく距離ができてきて……。まあ、男女だしそれが普通なんだけどね」

 

 凜は寂しげに微笑んだ。寂しいと言えば――花純は再び第一図書室の窓を見た。日野成という名のクラスメイトはもういなかった。

 

「ねえ、あの日野成君って、いつも図書室にいるの?」
「うーん、そう言われてみたらよくあそこで見かけるような気がするな。もしよかったら声掛けてあげて。日野君、ちょっとクラスで浮いてるの」
「ああ、なんかそんな感じだね」
「分かる? 平気そうな顔してるけど、どっか寂しそうなんだ。だからなるべく声を掛けるようにしてるんだけど、みんな何となく避けてるの。どうやら1歳上らしくて、何か悪いことをやらかして留年したっていう噂が立ってて。根拠のない噂だからくだらないと思うんだけど、この田舎の高校にあの茶髪は目立つんだよね。みんな怖いって言うの」
「怖い、か。そうかなぁ」

 

 花純は首を傾げる。
 同時に、昼休み終了のチャイムが鳴った。

 

 

 

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