ネット小説 【未来感カルテット】 ≪4≫花純(4)

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 曇天の放課後。
 渡り廊下を歩いていると、古いほうの図書室で、またしても日野成を見つけた。一生懸命本を読んでいる。
 好奇心がむくむくと湧き上がって、花純は図書室の扉を開いた。成のほかに、生徒は誰もいなかった。

 

「何読んでるの?」
「わっ」

 

 成は文字通り飛び上がった。
 構わず花純は本を覗き込む。

 

「Cawaii☆動物これくしょん あみぐるみの作り方……」
「わーっ、勝手に読むな!」

 

 成は慌てて本を隠したが、もう遅い。花純は目を丸くした。

 

「すごく意外な趣味」
「ほっとけ! いいだろ別に」

 

 耳まで赤くなっている。花純は首を傾げた。

 

「いつもここにいるけれど、ずっとあみぐるみの勉強をしてるの?」
「いや別に、そういうわけじゃ……。ていうかおまえ転入生?」
「木崎花純だよ」

 

 花純はあらためて、周りを見渡した。
 室内は広いくせに、明かりが少ない。古い本の、乾いたにおいがする。机も年季が入っていて、ボコボコしている。

 

「今なに作ってるの? うさぎ? 動物が好きなの?」
「うるせーなぁ。オレの趣味じゃねえよ」
「じゃあ誰の趣味?」
「……ばあちゃん。あげると喜ぶんだよ」

 

 成は目線をそらしながら、ぽつりと答えた。やっぱり怖い人じゃないと、花純は再認識した。

 

 

 

 

 それからというもの花純は、たびたび図書室へ行くようになった。
 古びた本棚に、汚れたカーペット。埃かぶった静けさに、心が落ち着くのだ。

 

「へえ、おばあちゃんと2人で暮らしてるんだ」

 

 花純は成の隣の席に座っている。放課後、この席は花純のものになっていた。
 成はうなずく。

 

「親は都会にいるよ。まあ、いろいろあってこうなった。花純は?」

 

 何度か話すうちに、自然にお互い下の名前で呼び合うようになった。成は、割と人なつっこい。

 

「わたしは両親が離婚したの。野木町(ここ)はお母さんの出身地でね、アパートで暮らしてるよ。すっごく狭いの」
「ばーさんちに住まなかったのか? 母親の古里なんだろ」
「おばあちゃんの家は広いんだけどね。もうおばさん一家が同居してるから、居づらいって、お母さんが言ってた。だからあんまり行けないの」

 

 成は黙った。花純の身の上話は、相手を黙らせてしまう。そんなつもりはないので、いつも困ってしまう。

 

(もう過去のこと、なんだけど)

 

 父親は酷い男だった。DV、ギャンブル、浮気と、あらゆるNGがてんこもりだった。母は気が弱い人で、部屋の隅でいつも泣いていた。
 花純はただ、黙って成り行きを見守っていたわけではない。むしろ母親の手を引っ張って、逃げるように家を出た。母親は、最初は抵抗した。
 まだ、あの男を愛しているのだと言って。
 泣いた。

 

「母親かぁ……」

 

 成がぽつりとつぶやく。

 

「お互い親で苦労するな。オレの親も、勘弁してくれってレベルでさ。ばあちゃんちに居候するようになったのは親のせいで……。いや」

 

 自嘲の笑みを浮かべて、花純を見た。

 

「オレの場合は自分のせいだ。弱かったんだよ。オレさ、2年留年してんだ。前の学校で、いじめられてたんだ」

 

 

 

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