ネット小説 【未来感カルテット】 ≪5≫花純(5)

表紙
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 夕日が校庭に映る影を、長くしていた。
 花純は黙って、成の話を聞いていた。

 

「親がいわゆる、モンペだったんだよ。モンスターペアレント。俺がもうほんと、幼稚園とかのチビだった頃から、ちょっとでもケガすると、夫婦して相手の家や学校に怒鳴り込んでさ。まあ、相手が一方的に悪かったら弁護のしようがあるけど、ガキのころってお互いさまなところあるだろ? オレも相手のおもちゃ取ってたり、手を出したのが先だったり……。でもそういう前後の話をぶっとばして、『成が怪我した! 相手が悪い! 許さん!』みたいな思考回路なわけだよ」

 

 成がケガをしたことが発覚すると、たとえ真夜中であっても相手の家に乗り込んだ。相手が気弱だとみると、喉笛にくらいつくように数々の暴言でねじ伏せた。
 小学校1年生の時、運動会のリレーで成がビリになったというだけで、学校に乗り込んだこともある。担任だけでなく校長も巻き込んで大問題を引き起こした。最終的に若い女性担任を泣かせ、来年からは低学年のみ、みんな手を繋いで一緒にゴールという訳のわからないものになった。
 そういうことを繰り返すうちに、やがて保護者に疎まれ、友達に嫌われ、学校では腫れ物として扱われるような状態になったのだと、成は言う。

 

「まあ、当然の結果だよな。オレはクラスでハブられて、さらに隠れていじめられるようになった。最初は持ち物隠されたり、すれ違いざまにキモいとか言われる程度だったんだけど、段々エスカレートしてきて、金取られたり、水ぶっかけられたり……。でもオヤに話すともっと厄介なことになるから、駅のトイレで着替えたり、こっそりバイトしたりして耐えたんだ。でも精神的にジワジワくるんだよな。鬱っぽくなってきて、その上ツイッターとかでも結構言われててさ。オレも見なきゃいいのに、ついつい覗いちゃうんだよ」

 

 やがて成は体調を崩しがちになり、学校を頻繁に休むようになる。休むと余計に、悪口は広がっていく。親にも教師にも頼れず、四面楚歌だった。そしてついに、学校へ行けなくなった。

 

「親がぎゃーぎゃー言うのもつらくてさ。それで、親がいない隙を狙って、着替えをカバンにつめこんで、電車に飛び乗った。行先はここ。ばあちゃんちに逃げこんだんだよ。ばあちゃんは優しくてさ、オレの居場所はもうここしかないって思ったんだ。それは正解だった。親が何度もヒステリックにオレを取り返しに来たけど、ばあちゃんは頑として、オレを渡さなかった。オレはただ、一番奥の部屋で、布団にくるまって震えてた」

 

 自宅で休学した期間は半年。祖母の家でひきこもって1年。合計2年経って、やっと高校へ通いなおす決心がついた。在宅学習していたので、勉強に遅れはなかった。噂では1年留年ということだったが、2年だったようだ。

 

「オレ弱いだろ?」

 

 成が笑った。泣き笑いのようだった。花純も同じような表情を返した。

 

「お互い、苦労人だね」

 

 

 

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