ネット小説 【未来感カルテット】 ≪16≫花純

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「それね、気づいてなかったの花純だけだよ」
「クラス中のみんなが気づいてたぞ。何人の女子が泣いたことか。あと、何人の男子がおまえのことあきらめたことか」

 

 いつもの放課後。
 古びた図書室で、呆れたような二人の視線を受けて、花純は目を丸くする。

 

「みんなすごいね! どうして分かったの?」
「だって花純と話すときだけ理央耳が赤くなるもん。しょっちゅう花純のこと見てるし」
「あいつ仕事が忙しいとか言って、女子には凛くらいしか話さなかったのに、花純だけは特別だもんな。花純に話しかけてる男子がいると、ハラハラしながらガン見してたりしたし。オレも最初はやきもち妬かれてたんだぜ。まあ、今も時々妬かれてるけど」
「理央ってイケメンのくせに余裕ないよね」

 

 全然気がつかなかった。みんな細かいところまで見てるなぁと、花純は感心する。
 今日理央は、メールの返信が溜まっているとかで、ここに来るのが遅れるらしい。

 

「で、どうなの?」

 

 おもむろに凛が身を乗り出した。

 

「理央のこと。最近頑張ってるよね。登下校毎日一緒だし、休み時間もよく話しかけられてるし」
「あ、うん。先週映画に行ったよ」
「マジか! やるなあいつ。で、どうだったんだよ」
「うーん……。理央ってとにかく優しいんだ。足のこと、もう治ったのに気にしてくれて荷物持ってくれるし。それに理央といると楽しいんだよね。すっごく楽しいから、帰る時寂しくなるよ。もっと一緒にいたいなって思う」
「おおー!」

 

二人の声がシンクロした。

 

「それ好きってことよね?! 付き合っちゃいなよ!」
「イケメンで有能で性格もいいやつなんてなかなかいないぜ。あいつを逃す手はないぞ、花純」
「うーん、でもなぁ」

 

花純は首を傾げた。

 

「めんどくさいな。恋愛って」

 

ぽつりと言ったら、二人がそろって沈黙した。つくづく息の合ったコンビだと思う。
それから遠慮がちに、成が口を開いた。

 

「ちょっと前から思ってたんだけどさ。おまえって恋愛避けてない?」
「えっ、そんなことないよ。だって凛や成とコイバナするでしょ」
「人のことばっかじゃねえか。自分だよ。花純は自分の恋愛に関してだけ、異常に『幼い』気がする」

 

 花純は首を傾げる。そんなこと考えたこともない。
 成は凛に「もしワケわかんねー話題だったらごめんな」と断りをいれてから、花純に再度向き直った。

 

「花純。おまえさ、母親のことで、恋愛感情の怖い面だけを見すぎてねえか? それで意識的に恋愛のことを避けてきたんじゃないのか?」

 

 花純は沈黙した。
 表情は、固まっていたのかもしれない。
 それを見て、成はバツが悪そうに頭を掻いた。

 

「いやーーごめん。そんな簡単に言い表せるようなことじゃないよな。気にしないでくれ」
「成いるか?」

 

 タイミングがいいのか悪いのか、扉が開いて理央が顔を覗かせた。慌てて成が応える。

 

「おう、どうした?」
「悪いけどちょっと手伝ってくれ。蓮兄に荷物運びに駆り出されててさ。来週体育祭だろ」
「ああいいけど、おまえメールしてたんじゃなかったのか?」
「蓮兄がいきなり来たんだよ。弟はコキ使うもんだって思ってるんだよ、蓮兄は」

 

 それから理央は、花純に笑いかけた。

 

「すぐ終わらせるから、もう少し待っててくれ。一緒に帰ろう」
「ーーうん」

 

 花純がうなずくと、理央は幸せそうに笑う。成と一緒に図書室を出ていってから、凛が花純に向き直った。
 慎重な表情で、聞く。

 

「ねえ、もしかして花純の家庭って訳アリなの?」
「うーん、普通とはちょっと違うかも。ありがちといえばありがちだけど。父親が不倫してあっちに行っちゃって、でも母親はまだ父親が好きで、離婚した今でも片想い中で病んでるっていう・・・」
「そうなんだ……。もしかして今までわたし、失礼なこと言ってなかった? もし言ってたらごめんね」
「全然ないよー、大丈夫だよ」

 

 凛はしばらく考え込んだあと、ふいに言った。

 

「あのね。わたし、あのオリエンテーリングの時に成のこと見直したんだ」

 

 花純はまばたきする。凛は続けた。

 

「情けないんだけどわたし、二人が崖落ちたとき、パニックになっちゃってどうしていいかわからなくなったの。昔からよく、凛は落ち着いてる、しっかりしてるって言われ続けてたんだけど、いざというときになったら、体が動かなかったのね。でも成は違ったんだ。すごく冷静に、わたしのこと勇気づけてくれて、手をひいて、山のふもとまで連れてってくれて……それで、先生に順序だてて説明してたの。わたしは何にも喋れなくて、でもどこか安心してた。成がいるから大丈夫だって」

 

 それから凛は、恥ずかしそうに笑った。

 

「ここだけの話だよ。成って実は、かっこいいね」

 

 うん、そうだよ、成は頼れる男だよーーそう言いたかった。
 でもうまく声が出なかった。
 なぜなら、凛が言葉以上の意味をこめて、花純を見つめていたからだ。

 

「ねえ花純。わたしもまだまだ『幼い』よ。だから一緒に育ててこうね」
「何を……?」

 

 なぜか緊張して、喉の奥が乾いていた。凛は優しく微笑んだ。

 

「きっと理央がもう、種をくれてるよ」

 

 

 

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