ネット小説 【未来感カルテット】 ≪7≫理央(1)

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 二条理央の朝は、メールチェックから始まる。
 冷たい牛乳を一気に流し込み、マウスをカチカチ操作する。仕事上重要なものとそうでないものを選(よ)り分けて、特定のタグを取り付けていく。

 

「おはよう、理央」

 

 蓮が爽やかな笑顔で降りてきた。すでに制服に着替えている。まだ頭がぼさぼさの自分とは大違いだ。

 

「おはよ蓮兄。メール仕訳しといたから」
「サンキュ。また返信メール幾つか頼みたいから、下書き入れとくよ」

 

 理央はトーストを飲みこみつつ頷いた。カウンターキッチンから母の葉子(ようこ)が困り顔で頬に手を当てる。

 

「まあ理央ちゃん。そんなにいっきに飲みこんだらお腹が痛くなってしまうわ。もっとゆっくり食べてね。ママからのお願いよ」
「うん、ごめん母さん。弁当取って」
「はいどうぞ。今日は理央ちゃんの好きなハンバーグよ」
「マジ? やった」

 

 葉子はニコニコしている。会社の重役である父親の隆一は、朝早く夜遅い。この時間にはすでにいない。
 理央はあわただしく弁当をカバンに詰めつつ、蓮を見た。

 

「耕兄まだ寝てるの? T社のSEOのことで聞きたいことがあるんだけど」
「徹夜だったみたいだからさっき寝たんじゃないかな。というか理央、もう家出るのか?」
「うん」

 

 理央はダイニングの扉を開けつつ、言った。

 

「今日からちょっと早いバスに乗ることにしたんだ。行ってきます!」

 

 

 

 

 理央の目的は、もちろん件(くだん)の転入生である。
 木崎花純は、転入初日から男子たちの話題の的だった。
 曰く、「目が大きくてキラキラしてる」「肌がすべすべ」「声が可愛い」「アイドルのXXに似てる」、そして皆声をそろえて言うのが、「とにかく可愛い!」であった。
 理央も、ほぼ全面的に同意である。だが生来のシャイな性格のせいで、そういった会話には加わっていない。
 滑り込みセーフでバスに乗り込み、理央はあたりを見回す。比較的空いている社内の、後ろから2番目の席に、ふわふわした髪の女子高生がぽつんと座っていた。理央の胸が高鳴る。
 今日も、可愛い。

 

「お、おはよ木崎」
「おはよ二条くん。朝同じなんて初めてじゃない?」
「いつも遅刻ギリギリだから、早めに出ようと思ってさ」

 

 さりげなく、花純の隣に座る。ふわりと、甘い香りがした。

 

「偉い偉い。成なんて、いつも遅刻ギリギリで、いくら言っても直そうとしないから。っていっても、わたしも転入初日で遅刻したんだけどね」
「成? って、誰?」

 

 親しげな響きに、ドキリとする。

 

「日野成だよ。クラスメイトの」
「ああ、日野……。あいつも遅刻ギリだっけ?」
「うん。放課後、図書室へ行く足は誰よりも早いんだけどねー」

 

 呆れたように花純は笑う。

 

「日野、図書室に通ってんの? 木崎も?」
「うん、ほぼ毎日かな。わたし部活やってないからヒマ人だしね。あ、でも図書室って言っても古いほうだよ」
「そうなんだ……毎日……」

 

 古いほうの図書室と言えば、ひとけがなくて幽霊が出るという噂の部屋だ。あんな場所、他の生徒が好んでよりつくとは思えない。
 ということは、いつも彼女と日野成は二人きりで図書室にいるということになる。理央はいてもたってもいられなくなった。

 

「じゃあさ、オレも今日図書室行ってもいい? そんな毎日通いたくなるような場所、気になるからさ」
「うん、それはいいけど……。あそこ新しい本ないし、暗いし、つまらないよ?」

 

 それでも花純は毎日通っているのだ。すなわち彼女のお目当ては日野成ということなのだろうか。
 理央は日野成というクラスメイトを思い出そうとした。が、ぼんやりと輪郭が思い浮かぶだけではっきりと覚えていない。入学してまだ2か月しか経っていないということもあるが、理央は兄の仕事の関係でいつも忙しく(休み時間もスマホでメールチェックをしている)、顔と名前がまだ一致していないクラスメイトが何人かいた。
 理央が今日、学校についてからまずすることが決まった。日野成を見つけて、その顔を頭に叩き込むことである。

 

 

 

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