ネット小説 【未来感カルテット】 ≪9≫理央(3)

表紙
1 2 3 4 5 6 7 8 [9] 10 11 12 13 14 15 16 17 fin.

 

「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」

 

 あれから1週間経った、放課後。
 生徒会室の扉を開けると、弱々しい女子の声が聞こえてきて、理央は立ち止まった。室内にいた2人の生徒が、いっせいにこちらを見る。
 ――まずいところに居合わせたかもしれない。

 

「ごめん。ノックし忘れた」
「ああ、理央か」

 

 兄の蓮が、いつも通り爽やかに微笑んだ。その隣には幼馴染の浮島凛が佇んでいる。理央と目が合ったが、すぐにそらされた。

 

「いいよ。もう話は終わったから。凛、この件は僕がやっておくから心配しないで」
「……はい。ごめんなさい、センパイ」
「蓮でいいって言ってるのに」

 

 微笑みながら、蓮は凛の頭をなでた。凛の目が潤む。

 

「理央、なんか用事だった?」
「あー、いや。いいや、家に帰ってからで」

 

 本当は仕事のことで分からないことがあったのだが、ちょっと聞けそうな雰囲気ではない。

 

「なら凛を教室まで送ってあげてくれ。うまく元気づけろよ、幼馴染」

 

 冗談めかして蓮が言う。そういうのは苦手なんだけど……と内心思いつつ、凛を見た。彼女の目には涙が溜まっていた。

 

 

 

 

 同い年の浮島凛とは、家が隣同士だ。
 母親同士が仲が良く、座れもしない内から一緒に遊んでいたらしい。
 ハキハキしていて、活発で、優しい凜は一緒にいてとても楽しい相手だった。小学校まではよく一緒に、そこらへんを駆けずり回って遊んでいた。

 

「今日はもう帰るのか?」

 

 ひとけのない、放課後の廊下。
 沈黙がきまずくて尋ねると、凛はコクリと頷いた。こちらを見ない。
 生徒会の仕事で、そんなに大きな失敗をしたのだろうか。蓮の様子を見る限り、何とかなりそうだったけれど。
 会話が続かない。ちらっと横顔をのぞいたら、凛は静かに涙をこぼしていた。理央は慌てて目をそらした。
 中学生になったころから、徐々に凛との距離は開いていった。お互い同性の友達ができて、異性の凛とは話しづらかった。さらに凛はクラスの人気者で、当然のごとくモテた。おかしなやっかみや噂話を避けたかったこともある。
 だから、幼馴染だとはいえ、今の凛との距離はけして近いわけではない。

 

「あのさ。凛、この後なんか用事ある?」
「……ないよ」

 

 かすれた声で凛が答える。
 凜は、花純と仲が良かったはずだ。

 

「じゃあさ、今から一緒に図書室行かないか? 古いほうの。最近通ってるんだよ。静かで落ち着くんだ」

 

 凜が怪訝な視線をよこした。

 

「古いほうの? あそこはいつも日野くんがいるよね。仲良くなったの?」
「ああ、よくあいつとも話すよ。花純もいるんだ。凛、いつも一緒にいるだろ? たまには来ないか?」
「ああ、花純……。そういえばそんなこと言ってたっけ」

 

 やっと凜は表情をやわらげた。

 

「そうだね。行ってみようかな」

 

 

 

 

「凛!」

 

 入るなり、喜色満面の花純が出迎えてくれた。

 

「今日は忙しくないの? ここに凛が来るなんて、びっくり!」
「うん、今日はもう生徒会終わったの」

 

 少しだけ凛の表情が翳ったが、一瞬で消えたので、気づいたのは理央だけだったと思う。

 

「ここでみんなが集まってるって理央から聞いて、来ちゃった」
「大歓迎だよ! 理央、ぐっじょぶ」

 

 ピ、と花純が親指を立ててみせる。こんな笑顔が見れるなんて、違う意味でオレグッジョブと理央は思った。

 

「ほら成、凛だよ」
「お、お、おう。珍しいな、浮島が図書室に来るなんて」

 

 成が突然カクカクした動きになった。変な奴だ。

 

「いま成からあみぐるみの作り方教わってたんだ。凛も作ってみない?」
「あみぐるみ? 日野くん、意外な趣味だね」
「いやこれはオレの好みってわけじゃなくて……」

 

 慌てて弁解する成は、ふと凛の顔に目をとめた。

 

「どうした、浮島? なんかあったのか?」

 

 凜はびっくりしたように、成を見返した。成は心配そうに眉をひそめている。
 やがて凛は、泣き笑いのような表情になった。

 

「うん。生徒会で失敗しちゃった」
「そっか。一人でたくさん頑張ってるからな。そういうこともあるさ」
「……ありがと」
「そうだよ、失敗なんて誰にでもあるよー」

 

 花純がニコニコしながら言う。
 理央はうまい慰めの言葉が浮かんでこなかった。でも凜に笑顔が戻ったから、ここに連れてきてよかったと思った。
 凜はあみぐるみの本を覗き込んで、成に質問したりしている。穏やかで楽しい放課後が始まった。

 

 この日から、特別な用事がない限り、自然にここへ集まるようになった。理央の目的は花純だったが、時間が経つにつれそればかりではなくなっていった。
 めぐる季節は、夏に差し掛かろうとしていた。

 

 

 

表紙
1 2 3 4 5 6 7 8 [9] 10 11 12 13 14 15 16 17 fin.

 

 このページにしおりを挟む
 トップページへ戻る