ネット小説 【未来感カルテット】 ≪10≫理央(4)

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「そういえばもうすぐ校外学習ね」

 

 凜が、おもむろにそう言った。成は化学のプリントから目を上げる。

 

「あー、そういえばカバ先生がそんなこと言ってたな」
「校外学習? って何やるの」

 

 花純の声に、理央もプリントから視線を移す。

 

「蓮兄が言ってたんだけど、山登りらしいぜ。オリエンテーリング。地図と磁石渡されて、班ごとに登るんだ」
「うん、そう。明日地図のルート作らなくちゃ。班ごとに違うんだ」

 

 凜がぼやくと、花純が目を輝かせた。

 

「凛がルート作るの? じゃあ一緒の班になったら一番先にゴールできるね」
「うーん、でも山が険しいから、ルートだけ把握してるだけじゃ一番にはなれないかもしれないよ」
「しかも夏だしなぁ」

 

 成が背もたれに預けて伸びをする。

 

「虫に刺され放題、汗かきまくりでキツいよなぁ」
「蓮兄が言ってたけど、最初に地図をじっくり見てルートを丸暗記して、いっきに登ると被害が少ないって言ってたぜ」
「それはおまえ、二条兄(あに)がスペシャルだからこそできるんだろ」
「うん……ルートはかなり複雑に作るから、暗記はできないと思う。さすが蓮くんって感じかな。山は険しいから、体力のない生徒は棄権するようにって注意事項あるくらいだし」
「二条センパイと言えば、この前改めて思ったけど、理央と似てるよね」

 

 花純が突然話題を変えた。理央はちょっと複雑な気分になる。

 

「まあよく言われるけど、オレ的にはあんまり似てるとは思わないな」
「そう? 一番上のお兄さんも似てるの?」
「いや、あんまり……」
「似てるよー。やっぱり面影があるよね。並んでると一目で兄弟ってわかる。特に、蓮くんと理央はお母さん似」
「へー! お母さん美人なんだ」

 

 花純が感心したように言う。それはつまり、母親似の自分も見た目がそこそこいいということなのだろうか。理央は耳が赤くなった。

 

「二条兄弟は何かと目立つよな。性格は似てなさそうだけど」
「あー、性格は似てないな。耕兄も蓮兄もオレと違ってしっかりしてるよ」
「会社経営してるんだよな。どんな仕事なんだ?」

 

 よく聞かれる質問なので、慣れた順序で理央は説明した。
 耕一郎の会社は簡単に言えばWEBサイトのマネージメントである。現在はSEO対策による集客に特化しているが、ゆくゆくはWEB制作も手掛ける会社にしたいようだ。
 花純は感心したように息をついた。

 

「難しいことしてるんだねー。正直ぜんぜん分かんない。理央もネットに詳しいの?」
「いやオレは子供のおつかいみたいなもん。耕兄が作ったメールの下書きを清書して送信したり、ファイリングしたり…。下働きみたいなもんだ」
「なんだ、メール送信かー。それならあたしにもできそう」
「ああ、誰にでもできるぞ。量も1日100通くらいだし――」
「100?!」

 

 理央を除く3人の声が見事にハモった。凛が半ば呆れ気味で首を振る。

 

「忙しいとは聞いてたけど、そんなに量こなしてるなんて思わなかったわ。耕くんの文章って、言っちゃなんだけど、アレでしょ。超簡略化されてるっていうか、ただの箇条書きと言うか」
「そうそう。それをビジネス文書に直さなきゃいけないから、慣れるまでは大変だったな。ビジネス文書の書き方の本を買ったりしてさ」
「蓮くんは教えてくれないの?」

 

 理央は肩をすくめる。

 

「教えてくれるわけないよ。ああ見えて蓮兄は、耕兄より厳しいんだ。習うより慣れろ、分からないとこは自分で調べろって感じ」
「にしてもすげえな。こんなご時世だけど、おまえすぐ就職決まりそう。あ、でも兄貴の会社に入るのか」
「蓮兄はそうするつもりらしい。大学も行かないって。頭いいから、担任がまだあきらめてないらしいけど」
「やっぱりそうだよね。もし大学行くならA大だと思ってたけど……。偏差値高いし、経営学部が有名だから」

 

 なぜか凜ががっかりしている。理央は首を傾げた。

 

「凜はA大の教育学部志望だったよな。先生になるってずっと言ってたし」
「うん……」
「お、オレもA大受けようと思ってる。2年もダブってるからせめて学歴でハクつけたいし」

 

 成が上ずった声で言う。たまに彼は挙動不審になるから不思議だ。
 凛と成は成績がいいから、難関のA大を志望してもおかしくないだろう。成がぽつりと言う。

 

「それにオレはちゃんと、家族がほしいから。だから、なりたい職業とかそういうことよりも、家族を食べさせられる仕事に就きたい。だからとりあえず、ハクのつく学歴とか、資格とか――もちろん必要なのはそれだけじゃないけれど、とっかかりが欲しいと思ってる」

 

 

 

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