ネット小説 【未来感カルテット】 ≪11≫理央(5)

表紙
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「わたしは奨学金が出れば短大行きたいなぁ。看護師とか、保育の免許とか、そういう長く続けられる仕事がいい。奨学金出なかったら就職かな」

 

 意外にも、花純は現実的なことを考えているようだ。フラワーコーディネイターとか、ブライダルプランナーとか、そういう夢のような響きの職業に憧れていそうなのに。
 花純が無邪気にこちらを見た。

 

「理央は? 二条センパイみたいに、即就職?」
「いや、オレは――」

 

 みんなの進路を聞いた後で、改めて自分を振り返ると、そのカラっぽさに我ながら驚く。
 将来に対して、「不安」しかないのだ。
 理央は自嘲の笑みを浮かべる。

 

「大学に行かないっていう選択肢は、なんとなく怖いな。情けないけど。うちの学校はほとんど進学するだろ? 耕兄の会社で自分がどこまで動けるか分からない。社長の耕兄はもちろんだけど、蓮兄もほんとすごくてさ」

 

 情けないと言いつつ、言葉が止まらない。
 自覚しているよりもずっと、進路の問題は自分に重くのしかかっていたのかもしれない。

 

「蓮兄は、学びたいことがあったらその道の第一人者を探し出して、その人のセミナーに参加したり、大学や専門学校の公開授業を受けに行ったりしてるんだ。それに、ネット上で企業家クラスタに加わってオフ会を主催したりして、積極的に情報交換してる」
「うげっ、すげーな。ほんとにオレと同い年かよ」

 

 成の顔が引きつる。理央は苦笑した。

 

「オレが蓮兄と同じことができるかっていうと、たぶんできないんだ。そんな才覚も積極性も持ってない。そんなオレが蓮兄の猿マネで進学せずに社員になったって、足手まといだよ。それなら医学部とか薬学部っていう、就職に有利なとこに行って、アニキたちとは別のフィールドで働いた方が精神的に楽かもしれないって思ってさ」

 

 花純の前で、弱さを露呈するようなことはしたくなかった。
 でも、うそをついて見栄を張ったって、余計情けなく思うだけだ。それにこの3人の前では、素の自分でいたかった。
 花純はうんうんと頷いた。

 

「いいんじゃないのかな、大学に行っても。話聞いてると今すぐコレやりたい! ってことがまだないみたいだし、それを探す意味もあると思うよ」
「そうね。それに家族の会社に就職する前に、別の会社で修行する人は多いのよ。自分の家族の会社しか知らないと視野が狭くなるでしょ」
「にしてももったいねーなぁ。このご時世に有力な就職口を蹴るなんて。まあ、オレらまだ1年なんだし、進路のことはこれからじっくり考えようぜ」

 

 みんな思い思いの意見を出してくれる。内容はバラバラだ。でも、誰の意見でも正しく聞こえる。
 と、いうことはどの道を選んでも大丈夫なんだ。
 理央は肩の荷が少し降りたような気がした。

 

「お、雨が降ってきたぞ」
「えー。どうしよう、あたし傘忘れてきちゃった」

 

 花純が困っている。理央はドキドキしながら、言った。

 

「今度はオレが貸すよ。一緒にカサ入ってこう」
「わあ、助かる。ありがとう、理央」

 

 ニコリと花純が笑った。可愛すぎて、めまいがする。今日は本当にいい日だ。
 ふと気づくと、凛と成がニヤニヤしながらこちらを見ていて、理央は無言で2人を睨みつけたのであった。

 

 

 

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