ネット小説 【未来感カルテット】 ≪12≫理央(6)

表紙
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 [12] 13 14 15 16 17 fin.

 

 校外学習当日は、晴天だった。昨日少しだけ雨が降ったから中止になるかと思ったけれど、この程度のぬかるみなら問題ないと連絡メールがあった。
 水たまりがある中での山登りは正直憂鬱だ。
 でも、理央の足取りは軽い。
 花純と同じ班になれたからだ。

 

「うーん、地図の見方がよくわかんない」

 

 難しい顔をして、花純が言う。方向オンチだからヨロシク、と行きのバスでも言っていた。
 そういうところも、可愛いと思ってしまう自分はもう末期だろうか。
 班員はいつもの4人だ。班決めは生徒の自由ということだったので、なんとなく集まった。

 

「何番の地図だった?」

 

 凜が地図を覗き込んだ。全部で20種類の地図があり、時間をずらして10班ずつスタートする。どの地図になるかはくじ引きで、花純が引いた。

 

「3番。難しい地図?」
「ひゃー3番? 一番険しいルートだよ。とにかく道が細いの」
「そんな地図誰が作ったんだよ」

 

 成がげんなりしている。凛が小声で「カバ先生がノリで作ってた」と答えた。なぜ小声かというと、真後ろに当のカバ先生がいたからである。
 理央は山を見上げる。生徒たちのにぎやかな声を、晴天が吸い込んでいった。

 

 

 

 

「それで、生徒会の資料を電車に置き忘れて、なくしちゃって……。駅長室に行って聞いても、届いてないって言われて、大失敗」
「ひゃー、そうだったんだ。凛でもそういう失敗するんだね」

 

 花純と凛の会話を聞きながら、山を登る。理央と成に聞こえないようにコソコソ喋っているつもりらしいが、丸聴こえである。
 これから坂がキツくなるというのに、あんなに喋りまくってて息が持つのだろうか。女とは喋る生き物なので仕方ないかもしれない。

 

「それで、蓮くんに報告したんだ。それで思わず泣きそうになっちゃって……。でも蓮くんは全然怒らずに、元気づけてくれたの」
「さーすが蓮センパイ」

 

 花純が兄を褒める。ちょっと面白くない。
 しかしそれは、前を歩く成も同じのようだ。足取りから不機嫌さがにじみ出ている。
 最近の付き合いで、成が凛を意識しているのには気づいていた。理央は少し、成に同情している。凜が蓮を崇拝しているのは、もう何年も前からなのだ。年季が入りまくっていて、簡単には崩せないだろう。

 

「それでその後、理央は図書室に連れてってくれて、わたしもあそこで放課後過ごすようになったの。だから蓮くんに感謝してるんだ」
「あたしも感謝! 凛いそがしいから誘っても来ないだろうなって思ってたんだもん。考えてみれば、生徒会の仕事なら図書室でやれるもんね。むしろそっちの方がはかどるもんね」
「そうそう。だからね、この前クッキー焼いて、蓮くんのおばさんに渡しておいたの。みんなで食べてくださいって」
「そこはさー、やっぱり個人的にセンパイに渡さないと! ただの差し入れになっちゃうじゃん」

 

 確かにそのクッキーは自分も、耕一郎も、父、母そろって頂いた。蓮は出かけていていなかった。「すまん、凛」と理央は心の中で手を合わせた。
 道がいよいよ細く、獣道じみてきた。片側は急激な崖だ。理央は女子2人を先に行かせて、成と挟むような列にして登った。2人はお礼を言いつつ、おしゃべりを続ける。

 

「うーん、やっぱりそうか。でも幼馴染だからなかなかそういうのがしづらいんだよね。うちの母親と蓮くんの母親、筒抜けだからさ。変なことするとすぐにうちのとこに情報行っちゃう」
「へえ、そういうもんなんだ」
「花純の母親はどう? 秘密厳守するタイプ?」
「あーうちの母親はあんまり友達いないタイプ。秘密をバラす相手がいないんだよね」
「そうなの? 花純とタイプ違うんだね。どんな感じのお母さんなの? 花純に似て可愛い?」

 

花純はなぜか、言葉に詰まった。

 

「うーん、どうかな。似てないと思うんだけど」
「じゃあお父さん似なんだね。花純ってかわいいからお父さんに溺愛されてそう」
「……うーん。そんなことないけど」
「お母さんとの方が仲いい感じ? わたしのとこもそうだよ。でもやっぱ頼りになるのは母親だよね。お父さんと仲悪くはないんだけど、ちょっと過保護というか。言葉を選んで話さなきゃいけないからちょっと疲れるんだ。花純のとこも同じ?」
「こんなとこまで来て、母親の話すんじゃねーよ。マザコンかよ」

 

 成の静かな声が、割って入った。2人はぴたりと会話をやめる。
 理央はびっくりしていた。成のセリフは、口調の割に内容がキツい。らしくないセリフだ。
 凛も同様に感じたのか、驚いたように成の背中を見つめている。先に声を発したのは花純だった。

 

 

 

表紙
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 [12] 13 14 15 16 17 fin.

 

 このページにしおりを挟む
 トップページへ戻る