ネット小説 【未来感カルテット】 ≪13≫理央(7)

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「やだな、そういう成はおばあちゃん子でしょ」

 

 くすくす笑っている。成は彼女を振り向いた。どこか安堵したような表情だった。

 

「いーや違う。オレのは祖母孝行っていうんだ」

 

 そこで、空気がゆるんだ。凛もほっとしたように、言った。

 

「マザコンって、男子の専売特許じゃなかったっけ?」
「おまえの大好きな蓮センパイもマザコンかもしれねえぞ」
「蓮くんはそういうんじゃなくて、お母さんを大事にしてるの。ね、理央」
「蓮兄は確かにマザコンとは違うような気がするな。それにしても凛、おまえさっきから蓮兄の話ばっかりしてるぞ。いい加減にしないと花純から嫌がられるぞ」

 

 凛は物心ついたときから強烈な蓮シンパである。それが恋心から来るのかどうか理央にはよく分からないが、たまにあまりにも度が過ぎることがあるので、幼馴染みとしては注意したくなるのだ。
 凛は沈黙する。だが花純はあっけらかんと笑った。

 

「やだなーそんなことないよ。どんな話でも楽しいよ。でもそうだね、もし話題変えるとしたら成の話しない?」
「どうして成なの?」
「あたしとしては心苦しい立場なんだよー。凛には分かんないと思うけど」
「やだ、全然分かんない。教えてよ」

 

 凛のニブさは折り紙つきだ。整った顔立ちをしていいるし、優しいから小学校の頃からひそかに多数、想いを寄せられていた。しかし凛がそれらに気づくことは一切なかった。たぶん、カレシができたこともないだろう。
 それにしてもよく成は、花純たちの会話を黙って聞いていられるなと思う。自分なら無理矢理話を変えているだろう。花純の片想いの相手の話なんて聞きたくない。
 成は黙々と急斜面を歩いている。
 だがその背中が不意に、こわばった。

 

「止まってくれ。ヤバいかもしれない」
「えっ、何?」

 

 成のすぐ後ろを歩いていた凛が、立ち止まる。成は振り返らず、言った。

 

「左奥の茂みに何かいる。結構デカい」
「な、何? なにがいるの?」

 

 花純が後ずさって、すぐ後ろの理央にぶつかった。彼女を自分の背後に回して、理央は凛の肩をつかむ。

 

「おまえも後ろにいろ。成、何が見える?」
「1匹じゃない。デカいのと小さいのと・・・」

 

理央は目をこらした。
出発前に聞いた、カバ先生の注意事項がよみがえる。山にあまり入りすぎると、ハチやヘビ、アライグマなどが出る可能性があるから、必ず地図の通りに進むようにと。
地図の通りに進んでいたのにこれである。さらに茂みを見通すと、確かに大きな毛むくじゃらが見えた。理央は舌打ちする。

 

「イノシシだな」
「親子連れっぽいな。真横通るのはやめた方がいいかもしれないぞ」
「イノシシ? 引き返す?」

 

凛が冷静に聞く。気丈な様子だが、長年の付き合いで、彼女が動揺していることがわかった。理央はうなずく。

 

「引き換えそう。カバ先生に知らせないと」
「イノシシこっちに気づいてる?」
「わからない。でも野生動物だから気づいてるかもな」

 

凛はうなずいた。

 

「分かった、引き換えそう。花純、大丈夫?」
「う、うん、――きゃっ」

 

花純が小さな悲鳴をあげた。理央が振り返るのと、彼女が足を滑らせるのが同時だった。

 

「花純!」

 

凛が叫ぶ。理央の手は間に合わなかった。
花純の華奢な体は、一瞬の間に、急激な崖を滑り落ちていった。

 

 

 

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