ネット小説 【未来感カルテット】 ≪15≫理央(9)

表紙
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 [15] 16 17 fin.

 

『花純ちゃんは一筋縄ではいかないぞ』

 

 蓮に笑って、告げられたことがある。
 風呂上り、ベランダでぼーっと花純のことを考えていたら、突然蓮が言ったのだ。あの時はどうして蓮が自分の気持ちを知っているのかとか、今花純のことを考えていたのがどうしてバレたのかとか、そういうことを考えて焦ってばかりいたので、蓮の言葉を深く吟味しなかった。

 

『苦労した分だけ大人になるっていうパターンもあると思うんだ。花純ちゃんはたぶん、そのパターンを突き進んできたタイプじゃないかな』
『……なんでそんなこと分かるんだよ』
『ただのカン』

 

 三兄弟の中で、一番カンが鋭いのは蓮だ。押し黙る理央に、蓮は肩をすくめて言った。

 

『いい子であることに間違いはないと思うよ。頑張れ、理央』

 

 

 

 

 蓮の言う、『一筋縄ではいかない』というのはある意味、当たっていた。
 理央は思いもよらぬ花純の反応に、赤面を禁じ得ない。

 

「えー! そうなの?! 全っ然気づかなかった!」

 

 花純は大声で驚いた後、矢継ぎ早に質問を浴びせかけてきたのである。

 

「いつから? どうして? きっかけは? 好きってどれくらい? 図書室に集まる前からそんな感じだったの? 凛は知ってる? ねえ理央、教えてよー」
「ち、ちょっと待て花純。そんないっきに聞かれてもオレ――」
「分かった、じゃあ一つずつでいいから教えて」

 

 花純は座った態勢のままにじりよってくる。思わず後ずさりつつ、理央はしどろもどろ答えていく。

 

「凛や成には言ってないけど、もしかしたら気づいてるかもしれない。オレ分かりやすいみたいだから。きっかけはその……初めて会ったとき、可愛いなって思って」
「可愛い?」

 

 きょとんと花純は目を丸くした。

 

「可愛いと、好きになるの? たったそれだけの理由で?」
「へっ? ああいや、それは人それぞれだけど、きっかけになったっていうか……。そのあとも色々話したりしただろ。それで、気づいたらハマってた。というかこういうの、言葉ではうまく説明できないよ」
「そうなんだー。ふーん……」

 

 花純は考え込むように、黙った。喋りだす気配がまったくない。
 理央の質問に答えることをすっかり忘れてしまっているようである。もうこうなったら仕方ない。花純はこういう子なのだ。どんどん自分から押していかなければ進まない。
 理央は意を決した。

 

「花純。おまえはオレのこと、どう思ってるんだ?」
「うーん。友達」

 

 2秒で答えが出てきた。理央はがっくりと頭を落とす。
 でも、先ほど思い知ったように、花純はこういう子なのだ。今までこれといったアプローチをしてこなかった自分も良くなかったのだ。
 旧図書室で、心地よいつながりに満足していた。でもそれはただ逃げていただけかもしれない。

 

(オトナになるって?)

 

 さっきの、花純との会話を思い出す。花純にとっての成長が、自立することであるなら。
 成にとってそれは、自分の気持ちをきちんと、表に出すこと。
 怖がらずに、ごまかさずに、まっすぐに。
 それが自分なりの、オトナのなり方だ。

 

「花純にとっては、今は友達かもしれないけれど、オレは友達として見てないよ」

 

 初めて会った時から、ずっと。

 

「花純にも、同じように思ってほしい。オレの方を見てほしい。だから、これからはどんどん押してくことにする」
「押す?」

 

 びっくりしたように、花純は目を丸くする。理央は顔が赤くなるのを自覚しながら、それでもはっきりと宣言した。

 

「強引にでもーー花純がオレのことを、好きになるように。だから、覚悟しろよ」

 

 空は、青い。
 その空の方面から、理央たちを呼ぶ声が聞こえてきた。――成と凛。そして、カバ先生の声だった。

 

 

 

表紙
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 [15] 16 17 fin.

 

 このページにしおりを挟む
 トップページへ戻る