ネット小説 【リィンの空】 第1章(4)

第1章【3】 ネット小説【リィンの空】 第1章【5】

 

 次の日は快晴だった。いつもどおりアレンを見送ってから、リィンは家を抜け出した。
 パースという名前に、心当たりはなかった。けれど、裏街を仕切っているディーンなら、知っているかもしれない。
 なぜパースのことを聞くのかわからないけれど、アレンが知りたがっているなら、教えてあげたいと思った。

 

「パース?」

 

 ディーンは眉を寄せた。記憶を探る様子で、腕を組む。

 

「ああ、あの男のことか。パース・サーチェスだろう? 確か遠くの島国から来て、仕事が見つからなくてフラフラしてるって聞いたことがある。実際話をしたのは2、3回だけどな。オレとそんなに変わらない歳だった」
「今、どこにいるの?」
「さあ。そういえば最近、見ないな。パースと何かあったのか?」
「ううん。ただ、知りたかっただけ」

 

 ディーンは眉を寄せた。彼の目はいつも、凛として強い。

 

「おまえ、最近どこで寝てる?」

 

 ドキリとした。あらかじめ用意していた答えを、引っ張り出す。

 

「林に、くぼみを見つけたの。草がしいてあって、あったかいから、そこでいつも寝てる」

 

 と、予想に反してディーンが顔色を変えた。

 

「馬鹿かおまえは! 野犬に襲ってくれと言っているようなもんだぞ」
「……そっか」

 

 怒られてしまった。リィンは嘘が失敗したことを悟る。
 ディーンは呆れたように息をついた。

 

「オレは忠告したからな。あとは自分で考えろ。……ああ、そういえばパースも、森で寝泊りしてるって話を聞いたことがあるな」
「ディーン、パースにも怒った?」
「ああ。まあでも、おまえほど知った仲じゃないから、危険を伝えた程度だ。……そうか、パースか。姿がいきなり見えなくなったのは気になるな。ちょっと探ってみるか。おまえも情報ほしいか?」
「うん、ほしい」

 

 リィンは頷く。ディーンが、口の端で笑った。

 

「もう行けよ。オレは今から用事がある」
「うん、じゃあまた来るね」

 

 リィンは手を振った。きびすを返すディーンの背中を見送ってから、アレンの家へ足を向けた。

 

 

 

 

「おかえりなさい、アレン」

 

 パースのことを伝えたくて、扉を開ける音がしたと同時に、玄関へ駆けつけた。

 

「ただいま、リィン。どうしたの、頬が赤いよ」
「パースのこと、ちょっとわかった。聞きたい?」
「本当?」

 

 アレンはコートを脱ぎながら、目を丸くした。

 

「ありがとう、助かるよ」
「パースは、島から来た人だって。17歳くらいの男の子で、最近とつぜん、見かけなくなったって。あと、森で寝泊りしてたから、注意されたみたい。あそこは野犬が出て危ないぞって」
「見かけなくなった後、どこに行ったか知ってる?」
「……わかんない」

 

 リィンは落ち込んでしまう。肝心なことがわからないままなのだ。でも、ディーンは調べてくれると言っていた。彼の情報網ならば、いろいろ判明するだろう。
 アレンは微笑んだ。

 

「ありがとうリィン。それだけ教えてくれれば充分だよ」
「あ、あのねアレン。もし、また分かったことがあったらすぐに教えるから」
「うん、待ってるよ」

 

 アレンの役に立てたようだ。嬉しくて、頬がゆるんでしまった。

 

「そうだリィン。僕は明日帰らないから、戸締りをきちんとしてから寝るんだよ。あさっての夜に帰るから」
「……どこか行くの?」

 

 リィンは目を丸くする。外泊なんて、珍しい。

 

「うん。ホテルでパーティがあるんだ。それに出席して、そのまま泊まってくるよ。だから玄関で物音がしても、僕じゃないから扉を開けちゃだめだよ。部屋からも出ないように」
「パーティ……?」

 

 聞き慣れない響きを、リィンは口に乗せた。アレンはホテルのパーティに招待されるような人間なのだ、と知った。
 それはつらい感覚だった。アレンとの間に、越えがたい溝があるように思えた。
 そんなリィンの気持ちを知ってか知らずか、「夕食にしよう」と、アレンはいつもどおりに微笑んだ。

 

 

 

 

第1章【3】 ネット小説【リィンの空】 第1章【5】

 

 

 

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