表紙
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 慣例の旅には『掟』がある。
 曰く、日々の糧は働いて得る、夜は民家に宿を借りるか野宿、困っている民がいたら何をおいても助けるべし。

 

「厳しいですねぇ」

 

 掟の書をぱたりと閉じ、リネットは歩きながら溜息をついた。

 

「王子に野宿させるだなんて、無礼もいいとこですね。これ、本当にメイベルさまもされたのかなぁ」
「ああ、きちんと励まれたようだ。旅の目的は、見聞を広めること、民の生活を肌で知ること、そして温室育ちを叩き直すことでもある。旅の後、姉上も少しはマシになった」
「確かに、鉄の心臓だったのが、鋼(はがね)の心臓に進化して帰城された気がしますね。ーーあれ? マルセルさま、誰か倒れてません?」

 

 リネットは一本道の先を指差した。道の際に、うずくまるようにして倒れている黒髪が見える。長く、サラサラしたそれは、女性のもののようだ。
 マルセルに「見てこい」と言われて、リネットは慌てて走り出した。背後でマルセルが剣を抜く音がする。そうか――とリネットは、自身も剣の柄(つか)に手を掛けた。
 あの女性が何者かに教われた可能性は否定できない。盗賊などのならず者はこのようなひとけのない道に潜んでいる。そしてその者たちはまだ近くにいるかもしれないのだ。

 

「もしもし、大丈夫ですか?」

 

 周りに注意を払いながら、リネットは片膝をつく。女性はまだずいぶんと若いようだ。もしかしたらリネットより若いかもしれない。
 彼女を抱き起こそうとして、ふとリネットは眉を寄せた。
 ……見覚えが、ある。

 

「どうした、リネット」

 

 リネットの戸惑いに気づいたのか、マルセルが近づいてきた。
 リネットは途方に暮れて、マルセルを見上げる。

 

「マルセルさま、どうしよう」
「何だ? 何があった」

 

 綺麗な形の眉をひそめて、マルセルは聞いた。リネットは倒れている女性を指差して、答える。

 

「この子……セシリアです」
「セシリア? どこかで聞いた名だな。……待て。僕の記憶が正しければ、彼女はエオウィンの――」
「はい、そうです。この子、わたしの超優秀な妹の、セシリア・エオウィンです」

 

 王国一の騎士の家であるエオウィン家の息女が、道端でのびている。マルセルは呆気にとられた後、長く息をついた。

 

「相変わらずエオウィンの者は型破りだな。一体何が起きたんだ?」
「それは……さあ。わたしにも何が何やらサッパリーーひゃあっ」

 

 突然ガシっと手首を掴まれて、リネットは飛び上がった。男顔負けの怪力だ。見ると、よろーりとセシリアが起き上がり、今にも死にそうな声で言った。

 

「姉上……おなか……減った……」

 

 そして今度こそ本当に、力尽きた。

 

 

 

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