表紙
1 2 3 4 [5] 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 fin. 後日談

 

 小鳥の声の合間に、炎がはぜる音がする。
 リネットは駆け足で枝を運んだ。枯れたものでなければうまく燃えない。若い枝は水分がたっぷり含まれているからだ。
 街道から少し外れた森の中である。とりあえず、ここでセシリアの介抱がてら昼食をとることにしたのだ。

 

「あれ? ねえセシリア、マルセルさまはどこ?」

 

 焚き火に少しずつ枯れ木を足しながら、リネットは尋ねた。セシリアは干し肉を飲み込んでから答える。

 

「あっちの川に魚を獲りに行かれました」
「ええっお一人で? もう、マルセルさまはいつも護衛をおつけにならずに動くんだから。セシリア、ちょっとここで待ってて。追いかけてくる」
「王子なら大丈夫ですよ。あんなお人形さんみたいに可愛いのに、とんでもなくお強いんですから。わたしと同等かそれ以上ですよ。姉上が護衛するまでもないですよ」

 

 リネットは言葉に詰まった。この素直な妹に悪気は全くないことはよく分かっている。ただ事実を言っただけだ。だからこそ、胸に刺さる。
 セシリアは4枚目の干し肉に手を伸ばした。リネットが家から持ってきた携帯食だ。サラサラの長い髪を、セシリアは鬱陶しげにかきあげた。
 リネットと彼女はあまり似ていない。小柄で華奢なリネットとは違って、セシリアはすらりと背が高く大人びている。目元は涼しげで、まっすぐの長い髪が媚びない雌鹿のような印象を与える。
 いわゆる、美人さんだ。
 その、美人さんの目が、不安げに細められた。

 

「そんなことよりも、姉上。わたしは姉上がとてもとても心配です。だってまさか、王子と二人きりで旅をするなんて……。姉上に危険が迫ったとき、王子はきちんと姉上を守ってくれるのでしょうか」
「セシリア、立場がどう考えても逆」
「ああ、心配です。姉上を守るはずの王子が、もしかしたら姉上に牙をむくかもしれない。姉上があまりにも愛らしいから、それに目がくらんで……」

 

 セシリアはいつもこうなので、このモードに入ってしまったら放っておくしかない。
 リネットとしては、神様の奇跡のような美貌を誇るあのマルセルが、その辺の子犬みたいな自分に目が眩むはずがないと思う。もしそうであれば、マルセルは鏡を見るたびに眩みすぎて失神してるだろう。
 そうこうしている内に件の王子が帰ってきた。右手に布袋をさげている。あの中にたくさん魚が入っているのだろう。狩りも、釣りも、植物採取に至るまで完璧にこなすマルセルだ。でき損ないの騎士である自分が、心配するようなことは何もない。
 それでもリネットは、マルセルと少し離れただけで落ちつかない。マルセルを見つけるとほっとする。それが騎士の習性なのか、ただの心配性なのか自分でもわからないけれど。
 無意識にマルセルを見つめていると、それに気づいた彼が居心地の悪そうな表情になった。

 

「無遠慮にじろじろ見るな。いつも言っているだろう」
「ご、ごめんなさいマルセルさま」

 

 リネットは慌てて目線をそらした。頬が赤らんでしまう。その様子を、セシリアは非常に不愉快な気持ちで見ていたのであった。

 

 

 

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