表紙
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 [18] 19 20 21 22 23 fin. 後日談

 

 場の空気が、凍った。初めに我に返ったのは、リネットだった。

 

「せ、セシリア。危ないよ、剣をしまって」
「危ないのは私ではなく、この男です。話は全部聞かせてもらいました」
「盗み聞きしてたの?!」
「はい。なにやら不穏な空気を感じたので、窓の外から一部始終」
「もう、ヒルトさんといいセシリアといい、どうしてみんなそういうことするんだろ」

 

 ヒルトはバツが悪そうに、リネットから腕をほどく。こっそりと、尋ねてきた。

 

「この興奮気味の少女は、君の妹か?」
「はい。ごめんなさい、いつもこんな感じなんです。悪い子じゃないんですけど」
「君は本当に、厄介なほどに愛されているんだな」
「何をコソコソ話している! さっさと姉上から離れろ、どすけべ!」

 

 リネットは慌てて立ち上がり、セシリアの剣を上から押さえた。

 

「とにかく剣をしまって。ヒルトさんはわたしを助けてくれたの。恩人なの。きちんと説明するから」
「いえ姉上。状況説明とか、そういうのいらないです」

 

 セシリアの目は据わっている。

 

「本当はマルセルさますら認めたくないのに、いきなり背後から抱きしめてくるような野蛮な男と添い遂げるだなんて、許しません!」
「そ、添い遂げ?!」

 

 激しく暴走するセシリアの思考を、リネットは止められそうになかった。途方に暮れてヒルトを振り返ると、彼はすでに落ち着いていて、興味深そうにセシリアを眺めていた。

 

「なるほど、こういうタイプの人間がリネットの周りに集まるのか。確かに方向性は違えども、あの王子もそのようなタイプだったな」
「えっ、セシリアとマルセルさまが同じタイプ?! そんなバカな」

 

 リネットは混乱したが、ヒルトは冷静だ。 

 

「セシリアといったな。オレはヒルト・ハーネス。精霊使いを生業(なりわい)にしている。ところで聞きたいのだが、なぜ君はここへ来たんだ?」

 

 むっとセシリアが押し黙る。ヒルトの質問には答えたくないらしい。リネットが間に入って、尋ねた。

 

「そうだよセシリア。どうしてここに来たの? お城を離れてもいいの?」
「あのバカ王子の命令で、派遣されたんです」

 

 渋々、セシリアは話し始めた。バカ王子とは聞くまでもなく、第2王子リュートのことだろう。

 

「例の村のことです。王子の言うとおり、女王に報告したら、すぐに小隊を組んで、兵士を派遣させました。でも彼らからの連絡がいきなり途絶えたんです。それを知ったリュートさまが、また私に『一人で行って手柄を立てて来い!』って命じたんですよ。まったくとんでもないですよ。まあでもそのおかげで姉上の貞操を守れたんだから、逆に感謝ですけれどね」

 

 すごい単語を聞いた気がするが、とりあえずそれを聞かなかったことにして、リネットは尋ねた。とても大事なことだ。

 

「行き道に、マルセルさまとすれ違わなかった? 3日前に一足先に城に帰ったはずなんだけど」
「ご一緒じゃないんですか? うーん、お会いしなかったけどなぁ。一本道のはずなんですけど、おかしいですね」

 

 セシリアは首を傾げた。確かにおかしい。リネットはあの時の嫌な予感を思い出した。マルセルを送り出した時だ。何かを見落としているような気がした。それは、マルセルの性格だったのだ。
 王国内で不穏な動きがある。そして自分は、すぐ目と鼻の先にいる。その状況で、あのマルセルが素直に城に戻るわけがない。
 行ったのだ。たった一人で――1小隊からの連絡が途絶えたという、不審な村へ。
 行かなきゃ、とリネットはつぶやいた。

 

「すぐに行かないと。マルセルさまが危険な目に遭っちゃう。わたしの剣はどこ? 早く行かないと」
「待て、リネット。精霊祓いが完了するのは今夜だぞ。体がまだ万全じゃない。ここはセシリアに任せて、君はせめて明日まで待った方がいい」
「それじゃあ、行ってきますヒルトさん!」

 

 見事にヒルトを無視して、リネットは風の速さで駆け出していった。セシリアは「この無鉄砲さこそ姉上!」とうっとりしている。
 そしてその後すぐに、セシリアとヒルトが彼女を追いかけたのは、言うまでもない。

 

 

 

表紙
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 [18] 19 20 21 22 23 fin. 後日談

 

 このページにしおりを挟む
 トップページへ戻る