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 村に着く頃には、すでに薄暗くなっていた。
 噂通り誰もいない。声や物音のしない村は、がらんとした空洞のようだ。死んだ村、という表現がリネットの脳裏をよぎった。

 

「とりあえず、家を回ってどのような状態なのか調べよう。そして派遣されたという小隊の行方も確認しなければならないな」

 

 ヒルトの提案通り、リネットたちは家々を見て回った。やはり人っ子一人いない。
 けれど、ある違和感を持った。一見、こつぜんと村人全員が消えたように見える。しかしよく調べてみると、干し肉や小麦などの常備食がないのだ。さらに、水瓶もなくなっている。
 何かがおかしい。最初に異変に気付いたのは、この村出身のパルタ・ジークだったという。村長の息子で、誰よりもこの村に詳しかったはずだ。その青年が、この違和感に気づかなかったというのか?
 これではまるで『村人たちが自分の意志で』、村を捨てて出ていったような印象を受けるのだ。

 

「うーん、これ以上は調べられないですね。一度城に戻ってもっとたくさんの兵士を連れてくるか、ここを直接管理している貴族サマを引っ張ってきて事情を聞くかしないとダメですね。すっごく面倒ですけど」

 

 お手上げと言わんばかりに、セシリアは溜息をつく。しかしリネットは思案し続けた。

 

(もしマルセルさまだったら、どう考えるだろう)

 

 忽然と姿を消した村人。貧しい村。異変の第一報は、この村出身のパルタ・ジーク小隊長からもたらされた。やがて彼も失踪する。そしてパルタは、村長の息子だ。つまり、全ての情報を知ることができる立場にあるのは、彼一人ということになる。
 リネットは顔を上げた。

 

「パルタが怪しいね。なんだかすっごく怪しいよ」
「パルタですか? そうかなぁ……」
「わたしは村の探索を続けるから、セシリアは貴族さんのところへ行って、この村の情報を引き出してくれるかな」
「ダメですよ! この村は危険なんです。1小隊が消息を絶った村ですよ。姉上は私のそばを離れちゃいけません。貴族に面会が必要なら、姉上も一緒に行きましょう」

 

 だがリネットははっきりと首を振った。

 

「ここに残るよ。だってマルセルさまがこの近くにいるかもしれないんだもん。わたしはマルセルさまの第一騎士だから、ここに残って、王子を探すよ」

 

 リネットの真摯な瞳に、セシリアは返す言葉が見つからないようだった。しばらくやりとりを見ていたヒルトが、口を開いた。

 

「オレがリネットと一緒にいよう。こう見えても元教会士だ。武器を扱うことはできる」
「それってすっごく不本意なんですけど」
「ごめんねセシリア。お願い」

 

 リネットが頭を下げる。セシリアはしばらく黙っていたが、やがて溜息をつきつつ首肯した。

 

「あーもうわかりましたよ。貴族サマは大ッ嫌いだけど行ってきます。絶対に気を付けてくださいね姉上。ヒルト、しっかり姉上を護るのよ!」
「分かった分かった」

 

 さすがにうんざりしたのか、ヒルトがやる気なさそうに答えた。その態度を叱りつつ、セシリアは村をあとにした。貴族の屋敷には、順調にいけば夜に辿りつくはずだ。
 リネットとヒルトは再び、村の探索を開始した。

 

「しかし、全くひとけがないな。本当に王子はここに来たのか? 一度立ち寄って、誰もいないから城に戻ったということはないのか」
「そうかもしれません。でも、そうじゃないかもしれない。セシリアが戻るまでは、探索を続けます」

 

 がらんどうのあばら屋を出て、次はどの家を調べようかと辺りを見回したとき、チラリと視界をかすめた影があった。家の壁に木材が立てかけてある、その裏に、小さな人影が見える。
 子供だ。

 

「ねえ、キミ」

 

 リネットが慌てて声を掛けると、子供――4,5歳の女の子だ――はびっくりしたように逃げ出した。リネットとヒルトは顔を見合わせた直後に、全力で子供を追いかける。
 子供の足だ、すぐに追いつくと思っていたが、子供はすぐ近くの森へ逃げ込んでしまった。鬱蒼とした木々、落ちかけた太陽も手伝って、視界が悪い。慣れない森に足を取られる中、子供は勝手知ったる場所とばかりに軽々と逃げていく。
 しばらく駆けて、ふいにリネットたちは同時に速度をゆるめた。木々の合間に宿る違和感に気づいたのだ。

 

 

 

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