表紙
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 失踪した小隊は、村人たちのアジトに監禁されていた。セシリアは彼らを城まで送るように命じられたので、不満をブツブツ言いながらも、それに従った。彼女が言うには、ヒルトとマルセルの中にリネットを一人にするのは危険極まりないらしい。
 リネットは満月に両手を伸ばす。

 

「精霊さん、ありがとう。今までごめんね」

 

 胸の辺りがほんわか光り、ゆっくり上がって、リネットの手のひらから抜けていった。美しい青い光は、踊るように1度くるりと舞い、夜空へ浮かんで消えていった。

 

「よく頑張ったなリネット。これで精霊送りは終了だ。もうおまえの中に悪魔はいない」
「ありがとうございますヒルトさん! ねえマルセルさま、今の見ました? あれが精霊さんです。ふわふわ光って綺麗ですよね」
「ああ。悪魔の正体が実は精霊だという噂を聞いてはいたのだが、まさか本当だったとはな。書類に書き留めておかなければ。女王にも報告して、中央教会に説明を求める必要がある。事によっては宗教法に抜本的な改変が必要だ」
「やだなーマルセルさま、こんな時にも政務のことばっかりお考えになって。でもそういうところがマルセルさまなんですよね。いつも真面目で一生懸命で、そういうところ可愛いな」
「おい、やめろ」

 

 マルセルに本気で凄まれても、リネットは特に気にしない。ヒルトに目を向けると、またしても苦笑のような微妙な表情を浮かべている。「勝手にやってろ」と顔に書いてあるような気がしたのは、気のせいだろうか。
 なんにせよ、精霊送りは成功したのだ。これでリネットは第一騎士としての責務を果たせる。わくわくして、マルセルに提案した。

 

「ねえマルセルさま、一回儀式してみませんか?」
「今?! ここでか?!」
「はいもちろん。きちんとできるか試してみたいんです。ほらほら、もうちょっとしゃがんでください。首元に届かないです」
「バカ、やめろ! 見られてるぞ!」
「えー別にいいじゃないですか。ライナス兄上なんていつでもどこでもヤってますよ」
「あの変態を見本にするな。ライナスめ、いつか第一騎士の身分をはく奪してやる」
「そんなことしたら兄上に暗殺されちゃいますよ……」

 

 リネットが恐ろしいものを見るような目で、マルセルを見上げた。
 星々は輝いて、平穏な夜を祝福していた。

 

 

 

 『エオウィン家の最弱騎士』の噂には、余談があることをリネットは知らない。
 とある王宮女官Aの言を引用しよう。

 

「リネットさまはどうしようもなく弱くて天然だけど、彼女以上に王子の第一騎士に見合う方はいないわよね。だってあの冷徹なマルセル王子が、片時もおそばから離さないんですもの」

 

 たまにパルタ・ジークのような空気の読めない者も存在するが、基本的に上記が城内全員の共通認識である。その事実を知らないのは、渦中の王子と、彼の騎士二人だけなのであった。

 

 

fin.

 

 

 

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