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「チェルシー様」
「なっ、なんだ」

 

 肩がびくっと跳ねた。
 レンが苦笑を滲ませる。

 

「名をお呼びしただけですよ。まだ」

 

 まだとはなんだ、まだとは。
 レンは涼しい顔で隣に腰を下ろした。

 

「お館様ですが、あのご様子だと、早晩やつれきりながらも結婚を許していただけそうですね。なにしろ奥様が賛成なさっている」
「そ、そうだな。なんだかんだであの家は母様の天下だからな」
「……。チェルシー様。こちらを向いてください」

 

 向こうとした。
 できなかった。

 

「か、体が動かない」
「どうしてですか?」
「それを聞くかおまえが」
「もしかしてオレのこと意識しまくってます?」
「当然だろう。ぷっ、プロポーズされたのだぞ、いま」
「してませんよ、まだ。貴女には」

 

 かあっと、さらに頬が熱くなった。

 

「おいしそうな林檎ですね」
「ば、ばか、おまえ、よくもそんなことを涼しげに」
「目を潤ませながら『ばか』とかいうの、よくないですよ。可愛すぎる」
「ば、ばか……じゃなくて、ええと」

 

 頬をぺろっと舐められた。
 飛び上がった。

 

「なっ、な、な、な」
「甘いな」

 

 堅い指先が、頬をなぞる。
 やがて唇に辿りつき、やわらかく撫でた。

 

「れ、ん……っ」
「少しだけ口を開けて」

 

 唇がわたしのそれに押しあてられる。
 いつもより深い。
 息がうまくできなくて、レンの胸もとにすがりついた。

 

「チェル」

 

 口付けのあいまに、囁かれる。

 

「好きだよ」

 

 声に、体内を甘くからめとられる。
 深い口付けに溶かされてしまいそうだった。

 

「レン……、っ」
「結婚しよう」

 

 目のまえに、琥珀色の双眸がある。
 熱情に濡れている。
 こたえはもう決まっていた。
 唇が頬に落ちる。
 ゆっくりと、うなずいた。

 

「うん。結婚、しよう」

 

 腰に絡んだ腕に、力がこもる。
 わたしたちは、さらに深く、甘いキスを交わした。

 

 

 

fin.

 

 

最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。
あとがきはこちらになります。
よろしければご覧ください。

 

 

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