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 もしかしたらこれは、夢かもしれない。

 

「どうしたの? もしかして、緊張してるのかな」

 

 エリオ・ロットが優美に笑みながら、いう。
 逞しい長身。黒髪黒目の、端正な顔立ち。

 

 あたしは身を引きつつ、こたえた。

 

「き、緊張してるよ。だって今日はあたしの騎士が決まる日だし」

 

「本当にそうかな。さっきからビビは、オレ自身に怯えているように見えるけど」

 

 前世の記憶をとり戻したのは、1年前。
 魔女の『痕(スティグマ)』が体に顕れたときだ。

 

 前世のあたしは能天気な女子高生だった。
 社会現象を巻き起こしたスマホ用乙女ゲーム『薔薇の聖女と、救聖の騎士』にのめりこんで、攻略キャラに萌えまくっていた。

 

 まさかそのゲームの世界に、転生するなんて。
 そして役柄は、ヒロインをいじめ抜く悪役魔女だなんて。

 

「その様子だと、やっぱりオレは本当に『魔女狩りの騎士』なんだね」

 

 エリオは笑みを深める。

 

 あたしはこのゲームの結末を知っている。
 ヒロインである聖女が、騎士団幹部らによる逆ハーレムを形成したら、あたしは死ぬ。

 

 この男。
 公爵家嫡男にしてエリート騎士、エリオ・ロットに、殺される。

 

「そろそろ始めようか」

 

 エリオがこちらに掌を差しだした。
 あたしは一瞬だけ、怖気づく。

 

 この手をとったら、『始まって』しまう。

 

 覚悟を決めろ。
 あたしは死にたくない。
 だから絶対に、逆ハーエンドを阻止しなければならない。

 

 あたしならできる。絶対に、やれる。

 

 せっかく推しキャラたちを間近で堪能できる立場を手に入れたのだ。
 死んでる場合じゃないのだ!

 

 あたしはエリオの掌に、自分のそれを重ねた。
 ゆっくりと光がひらいてゆく。
 光は『痕(スティグマ)』の形をとり、彼の手の甲に刻まれる。

 

 それは、青の竜胆(りんどう)。
 魔女のスティグマである。

 

 かくして嚆矢(こうし)は放たれた。
 逆ハーエンド、断固阻止。

 

 乙女ゲーあらため、悪役令嬢によるサバイバルゲーム、開幕である。

 

 

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