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 こうなったら真犯人を自分で探ってみよう。
 いい加減チェスターがウザい。

 

 四竜事件、毒盛り事件、拉致事件。
 これらがすべて同一犯の仕業であるなら、今後も動く可能性が高い。
 不安の芽は早めに摘み取っておくに限る。

 

 まあ、チェスターがウザいってのが一番の理由なんだけど。

 

「誰に相談してみるかな」

 

 ひとりで動くのは、拉致事件で懲りた。
 ここは協力者を募りたい。
 誰がいいかなぁ。

 

 白騎士団の面々とはいまいち仲良くなりきれていない。
 ヴェルマー様は傷心直後で顔を見るのもつらい。
 エリオはアレだし、残るはルークだけだ。

 

 騎士団最後の良心ルーク・バレット。
 相談するのに彼以上の人間はいないだろう。

 

 あたしはエリオたちにバレないよう、こっそりルークを連れ出した。

 

 

 

 

「秘密の話がしたいなら、ここだな」

 

 庶民的な料亭のまえで、ルークは馬のたずなを引いた。
 馬車ではなく、乗馬して来たのだ。

 

 ビアンカは乗れるけどあたしはできないから、ルークのまえに乗せてもらった。

 

「黒騎士幹部(ウチ)の連中はみんな貴族だからね。こういうところに馴染みがないと思うよ。店構えはキレイとはいえないけど、料理はうまいんだ」

 

 正面に腰かけて、ルークはメニューを見せてくれた。
 じゃがバター食べたい。

 

「ビアンカもどうぞ。ごちそうするよ」
「いえ、わたしは」
「いいからいいから」

 

 ルークは屈託なく笑う。
 ビアンカは遠慮しつつも、あたしの隣に座った。

 

「ルークって、侍女にもちゃんと気を遣えるよね」

 

「そうかな。まあ、オレは庶民出身だから、階下の住人への接し方がいまいちわからないんだ」

 

「でもそういうの、優しいよ。チェスターなんて、侍女の存在ガン無視だもん」

 

「貴族としてはそれが正しいんだよ。あれ、でもビビも貴族のご令嬢だったよね」

 

 ルークは首をかしげる。
 あたしは焦った。

 

「あははー、うちは田舎貴族だからそういうのうやむやになっててさー」
「そうか。じゃあビビも優しいな」

 

 爽やかに笑む。
 お婿さんにするなら絶対ルーク、まちがいない。

 

「それでビビ。内緒で相談したいことってなに?」

 

 料理をつつきながら、ルークがいった。

 

「うん。一連の事件の犯人、まだ捕まらないのかなって思って」
「ああ、そのこと」

 

 ルークは手を止めた。

 

「オレも気になってるんだ。ヴェルマーとエリオが調査してるんだけど、あいつら情報をぜんぜん回してこない」
「ルークにも? 同じ黒騎士幹部なのに、エリオってケチだね」

 

 ヴェルマー様を悪くいいたくない一途なあたし。

 

「でもまあ、あいつらは――特にエリオは特別だから。本来ならオレなんかが呼び捨てできるような立場じゃないんだ。普通に話しかけることができるだけ、ありがたいよ」

 

 ロット家は、領主である大公家と血縁関係が濃い。
 加えて白騎士幹部を多数輩出する、プレミアムな家なのである。

 

「でもこれとそれは関係ないよ。あたしなんて、監禁された上にバカチェスターに容疑者扱いされてるんだよ。納得いかないよ」
「そうだよなぁ。実はオレも、納得いってない」

 

 お水を飲みつつ、ルークは笑みを浮かべた。

 

「それでビビは、オレの個人的な見解が聞きたいの? それともエリオたちに情報を聞き出してほしいの?」
「両方! といいたいところだけど、エリオは口を割らなさそうだから、ルークの意見が聞きたい」

 

 ルークはうなずいた。

 

「わかった。主であるビビからの相談だ。偽りなく、誠実にこたえるよ」

 

 ルークの顔から笑みが消えた。まっすぐにあたしを見る。

 

「エリオが怪しいと思う」

 

 声を失った。
 想像もしなかったことだった。

 

「まず、竜の卵。これはエリオの実力であればであれば簡単に持ち出せる。毒薬の仕込みも裏殿に住んでいるエリオならできるし、ビビの拉致監禁をゴロツキに命じることも容易だ。彼はお金持ちだからな」

 

「でも四竜事件のとき、エリオはケルベロス討伐に出てたよ。聖殿に卵を持ち込むことなんてできないよ」

 

 あたしは必死でいい募った。
 エリオじゃない。絶対に、エリオじゃないのだ。

 

「それこそ、動かせる人間に命じればいい。エリオは討伐団の将軍だった。息のかかった者を伝令にすれば、都との行き来をさせることができる。それにケルベロスは国全体に散らばっていた。竜の卵があるアルノー山にも足を伸ばしたはずだ。卵はその時、エリオが自ら奪ったんだろう」

 

「竜の卵って重いんでしょ。遠征先から持ち帰れるものなの?」

 

「盗まれた卵は浮竜(ふりゅう)といって、風竜と火竜のあいのこなんだ。羽みたいに軽いし、大きさも直径10センチくらいだから、持ち運びは簡単だよ。珍しいから、あまり知られてないんだけどね」

 

「動機は? 動機がないよ」

 

 ルークは表情をゆるめた。

 

「――ごめん。やっぱりビビにする話じゃなかったな」

 

「そんなことないよ。あたしが聞いたんだもん。ねえルーク、動機はないでしょ? エリオじゃないよ」

 

「ああ、そうだな。オレも少し、神経質になってたみたいだ」

 

 ルークは優しい声でいった。
 あたしは胸をなでおろした。

 

「そうだよね。よかった」

 

 隣でビアンカが、心配そうにあたしを見ている。

 

 

 

 

「いままでどこへいってたんだ、ビビ」

 

 部屋のまえで、エリオが怖い顔して待っていた。
 ヤバい怒ってる。でもなんで?

 

「ルークとごはん食べにいってただけだよ」
「なにを話してた?」

 

 ビアンカが扉を開ける。
 内心焦りながら、あたしはこたえた。

 

「せ、世間話」
「ビビは嘘が下手だね」

 

 あたしとエリオが部屋に入った時点で、エリオはビアンカを振り向いた。

 

「外してもらっていいかな」
「ちょっとエリオ?」

 

 イヤな予感がする。慌ててふりかえるのと、エリオが扉を閉めるのは同時だった。
 ビアンカは、返事をする間もなく締め出された。

 

「ねえエリオ、いったいなに――」
「それはこっちのセリフだよ、ビビ」

 

 唐突に、エリオはあたしを抱き上げた。
 そのままソファに、やや乱暴に押し倒される。

 

「なにすんのっ」
「ひとりで突っ走らないようにってなんどもいったよね」
「ルークと食事しただけなのに」
「これから外出する時は必ずオレを連れていって」

 

 いつも穏やかなエリオの表情から、笑みが抜け落ちている。
 ふいに、ルークのセリフが甦った。

 

 ――エリオが怪しいと思う。

 

 ちがう。
 エリオなわけがない。
 でもこの人は、なにかを隠してる。

 

「エリオが隠してることぜんぶ話してくれたら、いうこときくよ」
「オレに取引をもちかけるなんて、怖いもの知らずだね」

 

 エリオは薄く笑った。
 思わず腰が引ける。

 

「オレは四六時中きみのことばかり考えてるけど、君を騙そうと思ったことなんて一度もないよ」

 

 そっと上体を抱き起こされ、胸の中に引き寄せられた。

 

「ただ、ビビが傷つかないように、それだけを考えてる」
「なんでそこまで。エリオが『魔女狩りの騎士』だから? あたしがおかしくなって殺すハメになったら、自分も死んじゃうから?」
「ビビ」

 

 甘い声で呼ばれる。
 それだけで、エリオが義務や自分の命のために、これらの言葉を紡いでいるのではないことがわかる。

 

 エリオの唇が、ひたいに、こめかみに、頬に押しあてられる。
 体が熱い。
 どうしよう、抵抗しなきゃいけないのに、できない。

 

「好きだよ、ビビ」

 

 瞳を優しくゆるませて、エリオはいった。。
 そしてゆっくりと、ただ触れるだけの、やわらかいキスを唇に重ねた。

 

 

 

 

 ……どうしよう。
 抵抗できなかった。
 あたしの生まれて初めてのキス。

 

 悪役同士のカップリングって、どうなんだろう。
 ダメだよね。
 きっとダメだよね。
 ロクでもない末路しか、考えられない。

 

 でももし、みんなが生き残れるエンディングを迎えて、これからさきずっとこの世界で暮らすなら、隣にはエリオがいてほしいと思った。

 

 

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